ジェイガイ

□慶び風の月
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癖、というものは、無意識にやってしまうもの。
毎日、毎日。
ほら、今日も。


「?」

ポケットに手を入れようとしたら、右だけ何かに阻まれた。何かを入れていた覚えはない。何だ。ジェイドの指がそれを取り出す―――




にっこり、深い笑みが目に口に頬に浮かび上がった。







バァンッ!

「わっ!」

彼にとって唐突になるように、わざと気配を消して扉に近付いて勢いをつけて開いてやった。すると思惑通り彼はこちらを出迎える準備を整えきれなかったようで体をビクッと縮めて裏返った声であたふた対応する。
「あ、ジェ、ジェイド、おは……」
だが、彼にはどんな隙も与えない。律儀に挨拶を(もしくはそれしか言葉が浮かばなかった?)しようとする彼にズカズカ真っ直ぐ近付いて、ぐいっと腰を抱いてやる。ひ、とかえ、とか彼が言ったかもしれない。だがそれを飲み込むように、彼の唇を奪った。








「んん! んー!」
しばらく呆然としていた彼だけど、何度か唇を甘噛みしている内に我に返ったのかじたばた暴れ出した。ジェイドは唇だけ離してやる。腰に回した腕は、がっちり彼を捕らえてぴったり自分にくっつける。
「ジェイド! 何すんだよ!」
顔を離してみれば真っ赤な茹でだこが出来上がっていた。ジェイドは笑う。もう一度口付けようとしたらたこあしがにゅっと出てきて頬をぐぅーっと押し返された。
「話を聞け! 朝っぱらから、何してんだこのおっさん!」
「いえいえ、朝だからこそのイベントでしょう。お仕事行ってらっしゃーいのキスですよ〜」
「そーゆーのはもっと軽いもんだ! あんた、いちいち、………もういい離せ!」
たこが自分で湯をかぶる。ジェイドは吹き出した。くっくっ、腹筋が痛くなる。
「…ガーイ」
「わ」
するりと顔の横、耳の後ろ辺りに口付けるように顔を寄せる。
「プレゼント、ありがとうございます」
ガイの胸が息を吸い込んで膨らむ。どくんどくんと速い鼓動が直に伝わる。ああ。
いとおしい。
「……やっぱばれたか…」
ぽて、とジェイドの肩にも顔が落ちてくる。
「秘密にしたかったんですか?」
「いや…、いや。気付いて…くれて良かった…けど」
どっちみち恥ずかしいよと呟かれる。なるほど。面と向かって渡すのは恥ずかしかったから、策略を練った訳か。ジェイドは抱いていた体を改めてぎゅうっと抱き寄せた。しなやかな体のラインが目を閉じていようがくっきりと瞼に浮かぶくらい、強く、しっかり、抱きしめた。
「…だんな…苦しい」
そう言いながら、ガイの腕はジェイドの背中に添われている。ああ。ああ。朝っぱらから何をしてくれるんだこの愛らしいひとは。そのまま返していいだろうか。
「貴方は可愛すぎますよ」
「…あほ」
「本当に、可愛らしい」
「……」
「好きですよ、ガイ。本当に、ありがとうございます」
「…………」
うん。
小さく小さく頷いた、彼の顎を目線で辿るように顔を上げていって、やがて青の瞳と無言の了解を交わし、ゆっくりと唇を重ねた。
いとおしい。
いとおしい。
内緒でプレゼントを渡す作戦を、いくつ考えた?
癖を利用する事思いつくまでに、どれだけ自分の事を見てくれた?
どんな顔をして、ポケットにプレゼントを入れた?
ひとつひとつを思って、体の奥が温まる。
同時に抱いた体をめちゃめちゃに掻き回してしまいたくなるような気持ちになる。
いとおしい。
もう。
どうしようもない。
「…ハッピーバースディ、ジェイド」
キスの合間に唱う声に、
「ありがとうございます、ガイ」
キスの合間にささやいた。
ああ。
自分が生まれてきたのはこの一瞬を迎えるためだったのだ。
(……柄にもないな)
ジェイドはたった今開けた自らの悟りに、苦笑いをした。




end

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