ジェイガイ

□続きをしましょう
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キスをした。
ジェイドとキスをするのは、とても気分が落ち着いて、好きだ。
香水の香りが傍でして、目を閉じていてもああジェイドだって分かって、ついほほえんでしまいそうになる。
幸せな気分。
少し低めの体温も、無機質そうな唇も、今は自分のものなんだと思うと、優越感めいた思いも生まれてくる。べつに誰かに自慢したいとか、競争相手がいるとかいう訳ではないのだけど、少し特別なことのように感じてしまうのだ。
キスが終わり、上へ向けていた顎を元に戻すと、ジェイドの瞳が見えて、俺は意味もなく笑ってしまった。ジェイドも静かにほほえんだ。俺はこのあたたかい空気が本当に好きだった。

・・・だけど、今日はちょっと違った雰囲気へと持っていかれた。

「ガイ、貴方のキスはなんだか可愛いですね」
「え?」
「欲がないとでもいいますか、他になーんにも意図がありませんね」
俺は目をぱちんと開けて、ジェイドの言葉を頭の中で反芻した。
欲?
キスの意図、が、ない?
ジェイドの言葉の意味がよくつかめなくて首を傾げると、ジェイドはなんだかくすくすと笑って俺の顎に指を当て、また唇を重ねてきた。疑問符が浮かんだままのキスには何となく酔いにくくて、俺は目を開けたままジェイドの様子を窺った。
と。
「!」
キスの最中、ジェイドがゆっくり口を開き、舌を伸ばして俺の唇に触れてきた。ぴくりと体が跳ねそうになるのを堪えた。
ジェイドの舌は俺の下唇の上に感触を確かめるように線を引く。それを付け足しのように何度か繰り返した後、唇を割ろうとしてきた。突然の展開に思わずきゅっと唇に力を入れて閉じてしまったら、ジェイドはゆっくりと離れていった。顔が一気に熱くなった。
「な、な、何すんだ!」
「私の意図は、分かっていただけませんでしたか? まあ、意図というか、気持ちというか、“お願い“なんですけど」
お願い、を強調しながらまた顔を近付けてくる。俺はさらに顔が紅潮するのを感じたけれど、ジェイドの腕が腰の後ろで組まれているため、逃げることは叶わず。

( もっと深く )

キスをした。
重なってきた唇が初めは優しいふりして前触れなく唇を噛んでくる。甘い仕草で、痛みはなく、ほんの少し痺れる程度に。痛いのは噛まれた所ではなく、心臓の方。
ジェイドの舌が、湿った粘膜が、閉じた唇に触れる。こじ開けるような強さはない。舐めたり、つついたり、こちらが口を開くよう促している。反応がなければさみしそうにひっこんで、しばらくしたらまたねだるようにちょんとつつく。
なんだよそれぇ、と思った。顔が熱い。今口を開けてしまったら心臓が口から飛び出そうだ。いっそのこと強引に口を割られた方が腹もくくれる気がする。下働きが長い俺はそんな風に、やるしかないという状況に追い込まれることには慣れがあるし(キスさせてた訳じゃあないが!)だけどジェイドはそうはしない。俺が反応するのを、意図とやらを見せるのを待っている。ねだりながら、待っている。


小さく、小さく口を開いたら、すぐに入り込んできた舌を、俺もすぐに舌を伸ばして迎え入れた。


(・・・  )


キスをした。
舌を触れ合わせるのは初めてだった。始めはどうすればいいか分からないと思ったけれど、そんな戸惑いはほどなく散った。ジェイドの求めに応じたり、自分もジェイドに触れたくて舌を伸ばした。さっきジェイドがしたように唇を軽く噛んでジェイドの唇を開かせた。中に舌を入れるとジェイドが応えてくれた。そうして舌を絡め合うと、腰がじんと痺れるのに気付いて焦った。思わずジェイドの首に腕を回してしがみついた。その時は、制止を求めたつもりだった。だけど結果的にはそれがきっかけとなって、俺たちはベッドに転がり込むことになった。






「どうでしたか?」
「ど、どうって……そんなこと聞くのかよ」
「貴方はいつもキスだけで満足そうでしたから。それはそれで可愛かったんですけど、ここまで事を進めて良いものか迷いましたよ」
「……」
くたくたになった体をいたわるようにジェイドが髪を梳いてくれた。その指がなんだか小さな謝罪を繰り返していたから、俺はその手をそっと取って、
「よかったに決まってるだろ」
キスをした。
よくないわけがない。
確かに心臓が止まるかと思ったし、体はぐったりしてるけれど。
香水の香りと少し低めの体温はいつものようにそばにあって、俺はいつものように幸せにつつまれている訳だから。




end


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