その他

□secret garden
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(右手に繋いだ 金色の
優しい日溜まり
麗らかな)

(左手に繋いだ 銀色の
静かな月空
凛とした)







「陛下!」
「陛下…」






「……ぐぅ」






「はぁ…本当、仕方のないお人ですね」
「申し訳ありません、伯爵…」
「あ、そんな、少将が謝らないで下さい」
しゅんと頭を垂れる銀色と、俯いていた頭を慌てて上げる金色。その真ん中には二人の主。
「少将、戻られなくて大丈夫ですか?」
「はい。今日の公務は全て終了しています」
「ああ、では早めにご帰宅される予定だったのでしょう。それがこんな事に…後で文句を言ってやらなきゃ」
「ふふ。私の事はどうか気になさらないで下さい。伯爵は?」
「俺も大丈夫です。まぁ…ブウサギ達が寂しがってるかもしれませんね」
こんなんじゃ。






(優しげな金色。
春をそよぐ風のように、
肌を温める)






膝の上にどっかりと上体を預けて眠る主の髪を、金色は捕まっていない方の手でいつくしむように梳いた。
それを見た銀色は言葉もなく目を丸くする。
「…………」
「えっ?…どうかしましたか?」
「あ、いえ、その…」
「…あ」
銀色の心情を察して、金色がぱっと手を引っ込める。
「一臣下が陛下の御髪に触れるなんて無礼ですよね」
「あ、いえっ、決してそのように思ったのではありません。ただ」
銀色は戸惑う口元をふっと緩ませて、視線を下げた。
「あまりに、お二人の姿が自然だったので。普段から、そうされているのかな、と」
その先に、眠る主にしっかりとつかまれた左手を写した。
「…よく、眠っておられますね」
「そうですね…」
「お疲れなんでしょうか…」
主の手をぎゅっと握り返した銀色は、思いをこっそり伝わせる。
「陛下……ゆっくり休んで下さい。…お疲れ様、です」







(儚げな銀色。
冬を包む雪のように、
心を見守る)







「少将?」
「こんな時でないと、言えませんから。私は、仕事を持ち込んでくる方の人間なので」
大切なものを愛でる仕草で、主の指をそうっと撫でる。
「…じゃあ、俺も言っとこう、かな…俺もわりに口やかましいから」
肩にかかるほど長い主の髪をふわりと取り、さらさらと少しずつ落として楽しむ。やがて指先に僅かに残った髪に、金色は口付けて囁いた。
「……お疲れ様」














(金と銀の熱が交じり合って
金と銀を結んだ主の体に浸透し
一番深くの無防備な場所へ
ゆっくりと注がれて満ちていく)











「陛下っ!」
「陛下」







「………んぁ?」







「さぁ、起きて下さい! まだ公務がお済みでないんですから!」
「陛下、明日は会議がおありですよね? 差し支えが生じてはカーティス大佐が…怒ります」
「ああ、ほらもう、庭で寝たりするから、草がたくさん付いてます」
「早く、宮殿へ戻りましょう。お身体が冷えてしまいます」




「………」




目を覚ました途端に始まった小言の嵐。
その中でピオニーは、まだ夢の中にいるような気分でぼうっとしていた。服から草や土を払うガイや、昼寝をする前に食べていた焼き菓子を片付けるアスランの動きも、ただただぼんやりと見ていた。
何だ、この、ふわふわした感覚。
「手を」
「え?」
「?」
「握っていたのは誰だ?」
そう。手が、妙に疼く。
この手がまだ、夢と繋がっているような気がする。
あの不思議な、温かくて、穏やかで、幸せな夢と。
だけど、ガイとアスランはお互いに顔を見合わせて、なんだかくすくすと笑っている。それは、秘密を共有する共犯者の顔。悪戯を隠す子供の顔。
「おーい…」
「俺じゃないですよ」
「私も違います」
くすくす、笑っている。
ピオニーはむっと口を尖らせる。
「嘘言うな。おまえらじゃなかったら、誰がいるんだ」
「違いますよねぇ」
「はい」
「このっ!」
がっと勢いづけて上半身を跳ねさせると、二人がわっと声を上げて逃げた。距離を取った先で、並んで、まだ笑っている。楽しげに金と銀の髪が揺れる。


金と、銀…。


ピオニーの中に既視感が生じるが、あまりにもぼやけたそれの正体に気付く事は叶わなかった。
…叶わなかったけれど。
「なぁ、また庭で茶飲む時、おまえら呼ぶから、来いよ」
ピオニーはにぃっと笑った。
体に残る温かさの謎。それを解き明かすのも一興だ。夢への鍵はこの二人が持っている。
ピオニーの言葉に、ガイとアスランはきょとんとした顔を向け、
「はい、陛下。喜んで」
声を揃えて、破顔した。
それを見たピオニーは、とりあえず満足した。
「おしっ、じゃあそろそろ帰るか!」
「はいっ」
ぐっと背伸びをしてピオニーは軽い足取りで宮殿へ歩いた。


そして、仕返しではないけれど。
両隣を歩く、皇帝陛下に隠し事をした敬無き金と銀。
隙を見てそれらの髪の毛をぐっしゃぐしゃに掻き回して、罰を与えてやった。





end

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