その他

□レイニーデイ,ワンショット
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「あぁ――ん、もぅっ!」
どばんっと腕を振り下ろすようにして、アニスは机を叩いた。苛立ったその手には、きらきらと光るガラスが背面に散りばめられた卵型の櫛と、彼女の黒髪によく映える黄色いリボンが握られている。アニスは格闘していた。もちろんアニスの部屋に誰かいる訳ではない。彼女が戦っているのは自分自身だ。というより――
「もー最低! 湿気のせいで、髪の毛まとまんないよぉ!」
アニスは地団太を踏みたい気分だった。生憎の雨により彼女の豊かな黒髪は湿気を含んでくるくると円を描いている。この憎い敵を何度も何度もお気に入りの櫛で退治してやるのに奴は素知らぬ顔でくるんくるんと自己主張。ガンっと何度目かの八つ当たりを受け机が悲鳴を上げる。
「くそー。こんなんじゃアニスちゃんの魅力が半減しちゃうじゃんっ」
鏡の中の自分を睨むようにしながら低く呟くアニスの耳に、のほほんとした声が届く。母だ。
「アニスちゃん、朝ご飯は食べないの?」
片付けちゃってもいいのー? なんて聞いてる側からかちゃかちゃと食器の擦れる音が聞こえてくる。―――こんな時ばっかり気が早いんだから!
「あーん、ちょっと待ってぇ!」
アニスは慌てて櫛を放った。

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