その他

□冬道小道
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はふー
さっむいなぁ、手がかじかむ、吐く息が白い
なぁなぁアッシュ、なんかあったまることしようぜっ!

あったまること?
…たとえば、何だ

んと、おにごっこ!
勝ったら、今日の晩メシ、好きなものガイにリクエストすんの!

はっ、そんなくだらねぇ事、誰がやるか

俺、たこカレーに決めたっ!(だっ)

…………この、屑コラ、待ちやがれ!!(だっ)













「二人とも、この寒いのに、元気だねぇ…」

遠く遠くからこちらに走ってくる赤い子二人を見つけて、金糸の青年は苦笑する。
ああ、こけそう!
頼むから怪我すんなよ、何急いでるんだ、あいつら。
走って、走って、ふふ、横断歩道はちゃんと止まって、青になったらいっせいにドン。
あともう少し、もう少し、あと…

あ、

やば






どかぁんっ!
「ぐぇっ!」
寸前の予感は遅すぎて。
ガイはノンブレーキで突進してきた子供達二人を体で受け止める羽目になった。腹あたりにどすどすと衝撃を受けて思わず転びそうになってしまう。
「もーっ、アッシュついてくんなよっ!」
「てめぇがおにごっこだって言ったんだろうが!」
ぎゃあぎゃあ、ガイに飛びついた状態のまま、ルークとアッシュが言い合いを始める。おぉ、何だ何だ、おにごっこしてたのか。そのわりには、二人並行に走ったり、仲良く信号が変わるのを待ってたり…一見おにごっこをしていたとは思えなかったんですけど。
「おにごっこは終わったんだよ! ガイがいたんだから!」
「何勝手な事抜かしてやがる、屑! だいたいガイを先に見つけたのは、俺だ!」
「…っ俺は、ガイに最初に手、振ったもん!」
「俺はガイに先に着いた!」
「先に着いたのは俺!」
「俺!」
「俺っ!」
あら大変、俺もてもて。
ガイは二人の真上でこそっと口を三日月形にして、こほんこほんと咳払いをしてみせた。
「はいはい二人とも、ここは外だぞ、うるさくしない」
注意するとぴたりと止む合戦に、思わずまた笑ってしまう。小さな頭を撫でてやりたくなったけど、片手は今日の晩御飯の材料がたっぷり入った買い物袋に塞がれている。もう片方の手で撫でる事もできたけれど、どっちを先に撫でたずるいこっちもこっちもと騒がれるのは経験済み。ほーら離れた離れた、子供達二人が自分から退くように促すだけにしておいた。
「ガイ! 今日はたこカレーが食べたい!」
「あ、てめぇ! ガイ! 俺はきのこのカレーがいい!」
「そんなのぜったいダメだっつーの! たこがいいたこっ!」
「うるせぇ騒ぐな、屑!」
ぎゃあぎゃあぎゃあ、結局注意もむなしくすぐさま前の状況に戻ってしまい、でも慣れっこなガイは、あったかい微笑みを浮かべる。自己主張を繰り返す二人の前にしゃがんで、目線を合わせる。
「なに、そんなにムキになってんのかは知らないけど、ごめんなぁ。もう今日の晩メシはチキンカレーって決めちゃってるんだ」
ふたりのだいすきな、な。
そう言うと、ルークとアッシュは今度こそ完全に合戦をやめた。
二人して、ぽかんとしてみたり、ばつの悪そうな顔をしてみたり。
あれ、今日のケンカはあっさりしてんなぁ。
「「………わかった」」
こくんと神妙な顔をそろえて頷く子供達に、ガイは首を傾げる。
「…チキンカレーはいやだったか?」
「「そんな事ないっ!」」
「そうか、よかったよ。じゃあ早く帰って、作らなきゃな」
立ち上がって、ガイはゆっくり歩き出す。

「さ、かえろう、ふたりとも」





ガイの両隣をそれぞれ陣取った赤い子達は、ガイを見上げたり、ちょこちょこ走り回って時に小突きあったりして、元気な笑顔を見せている。
ガイは二人のその白い息に反した真っ赤なほっぺたを見て、家に着いたらココアでも淹れてやるかなんて思いながら、とことこと家路につくのだった。




end

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