その他

□緑の結末
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・ガイはパーティを離れエルドラントで主にシンクと暮らしてます
・シンクが連れていっちゃいました
・ガイがそれを望んだのかは微妙です
・でもガイの意思でエルドラントにいます
・七神将ではありません


※死ネタです。



::::::


「シンク」
にっこり笑ったガイと、少しだけ警戒したような顔になるシンク。警戒は形だけで、実際は照れているだけなのだけど。これはもう、お決まりの構図。
「庭先の花に水やってくれただろ? すごく嬉しかったよ」
「…単なる気まぐれだよ」
「シンク、前は花踏んで歩いてただろ。俺が何度言ったって聞かなくてさ。でもだんだん踏まなくなってって…ついに今日世話までしてくれるようになった」
「聞いてる? 気まぐれだって言ってるでしょ」
「俺がここに来て初めて見た光景だったよ、花に水やるシンクなんて」
「…その浮かれた口いい加減閉じなよ、イライラする」
「本当に嬉しかったよ。忘れないでくれ。何かを大切だって思う気持ちをおまえにずっと持って欲しいと思ってたんだ」
「…」
「そうして少しずつ身近なものを…自分の事を、大切にする事も覚えてくれ」
「……」
シンクはガイのチョーカーに指をかける。それをグイッと引っ張って、ガイに体を傾けさせる。
「それは自分の保身?」
「………、…違う。…ひねくれてるねほんとに」
「ふん」
そしてそのまま、重ねるだけのキスをした。ガイは驚いて息を飲む。だけど、すぐにふわっと優しい笑顔を宿らせる。
「そう…だな。ひねてないおまえなんてちょっと気持ち悪いな」
「…噛むよ」
「ゴメンナサイ」
ガイは腕をシンクの小さな体に回してぎゅうと抱きしめた。
シンクも、…同じように、否、やはりひねた部分が妨げでガイを抱きしめる事はできなかったけれど、服をぎゅっとつかむ事はできた。ガイはもっと笑った。シンクは口を曲げながらも振りほどくことはしなかった。

と。
何だか、足元に違和感を覚えた。
それが最初。

「?」
「!」



ドン!



それは、今まで体感した事のない衝撃、だった。



「…う」
呻き声を聞いて、シンクはハッとなった。
倒れ込んだ自分に覆い被さっているガイの体、が、崩れた家具の下敷きになっているのを見た。
それは自分だって家具の下敷きになっているという事だったのだがそんな事は思いもせず、ガンッとガイの体を潰している家具を蹴飛ばしてどけた。
いてて、というガイの声は、先程の小さな声よりも楽になっているようだったが、シンクを頼るように起きた体はガラスの破片や木屑をたくさん浴びて少量の血が出ていた。シンクは頭から血が下がるような冷たい憤りを感じた。
「…エルドラントが墜落したみたいだね」
「な…」
ガイの表情が冷える。
それをシンクは静かに見る。
やがて、シンクはガイを置いて立ち上がった。ガイは支えをなくしてずるずると床に崩れ落ちた。
だけどシンクに戸惑いの手と視線を差し出す。
シンクはそれを一瞥したが…ふいっと背中を向けてしまう。
「そこでじっとしてな。どうせ動けないだろうけどね」
「シンク…!」
「傷の手当はアンタを迎えに来た奴にしてもらえばいいさ」


「じゃあね」






預言なんてものがなければ

ボクはこんな愚かしい生を受けずに済んだんだ

得たものなんて何もない

ボクは空っぽだ


空っぽの、ままだったんだ




ザザザッ、と、地面に打ち付けた体が長く滑る。その痛みを最後に、もうシンクは立ち上がれなかった。
ぜいぜい、と息が切れた。
仰向けの体、その視界に、まるですべてが嘘のような青空が、うつる。
すべてが、嘘のような。
ああ、
嘘なら………

ザリ、と。
遠くで足音が聞こえた。
もう聞き慣れた足音だった。
剣を構えたレプリカ達が息を飲む気配がする。

嘘の青空でも、
手に入れる事ができた
嘘でも
ほんの一時だけだったとしても

ザッ、ザッ
記憶にあるよりも少し重い足音だったけれどそれは確実にシンクに近付いた。
やがて青空に重なってもう一つの青空が自分を見下ろしていた。
「ガ、イ…!」
レプリカが叫んだ。
ガイはゆっくり膝を折って、シンクの小さな体を支えた。その瞳に浮かんでいる色は、惑い。そして悲しみ。シンクは次第に呼吸をする力も失っていくが、ひゅっ、ともう一度だけ強く息を吸った。
「…もう、いいよ」
掠れた声が伝えたのは拒絶だった。ガイの目が、見開かれる。
シンクは続けた。目が霞んだ。もうガイがどんな顔をしているかなど分からなかった。
ただ、自分を支えている腕の感触だけが分かった。
そう、分かった。
これはさっき、いとおしそうに抱きしめてくれた腕とは違うのだという事が。
あんなに力強く、迷いなく、抱きしめてくれた腕は、震えているのだ。迷うように、震えているのだ。
「アンタは本来の場所で…あいつらの所で幸せに生きていけばいい」


「本当は、そうしたかったんでしょ?」





・・・それは、
ひねくれたシンクの最後の優しさだったのか
それとも
心からの侮蔑だったのか
ガイには分からなかった。
本当に分からなかった。
だけどガイは首を縦にも横にも振る事ができず
まるで溶けるように消えていくシンクの体を追いかけ抱きしめる事すら、
間に合わなくて。

「・・・シンク」

何の重みも温かさも感じなくなった頃、ガイはやっとぼろぼろと涙を流した。
シンクのいた空間を抱きながら、泣いた。






「……ガイ」
ルークの声だった。
「ティア、ガイの怪我治してやってくれ」
「ええ…」
近付いてくる足音。
だけれど、
それを拒絶するように、ガイは蹲っていた体を一歩、退かせた。皆の足は止まる。ガイはゆらりと立ち上がった。
「…………………」
「…ガイ…」
心配するルークの声が遠かった。
「…俺は…」
ガイは、次から次へと流れ落ちる涙を止める事ができなかった。
「…分からない……本当は…望んでいたのかもしれない…」
皆の元へ帰る事を。
ルークの元へ帰る事を。
エルドラントから近くなった空を見上げながら、ルークの隣で見ていた空を思い出す事がなかった訳じゃない。
だけど…
「シンクのそばにいてやろうって…思った事も本当だったのに……それをシンクに信じさせてやれなかった………」
ガイは顔を覆ってしまった。
花を踏む無機質な後姿が、やっと自分に触れてくれたのに。
ほのかに灯ったあたたかさを、きっと自分は残酷に吹き消したに違いない。
不必要だとされる事、
代用品として扱われる事、
それが一番嫌いだと言った彼に、結局味わわせたのは―――……

すらり、と。
ガイは、剣を抜いた。

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