ルクガイ

□決まり事
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きまりだよ、ぜったいだよ

あけましておめでとう
ことしもよろしく

としのはじめのきまりごと。







「おぼっちゃま、明けましておめでとうございます」
「…んー」


「ルーク様、明けましておめでとうございます」
「ルーク様、今年もよい年であられますように」
「ルーク様、」





「なぁ、ペール」
「おぉ、ルーク様、明けましておめでとうございます」
「…ガイ、知らね?」
「ガイなら、今街に出ておりますよ」
新たな年の始まりの朝。
こんな日でも変わらず庭の花の手入れに精を出す老人にルークは声をかけた。するとこの庭師のペールも他の使用人や騎士達と同様この日お決まりの挨拶を述べるが、ルークはほんのちょっと意識して、返す言葉を飲み込んだ。
「…チッ」
そうして苛立たしげに舌打ちをすると、金色の行方を探す事をやめて、自分の部屋へと足を向けた。






「明けましておめでとうございます、ルーク様」
「おめでとうございますルーク様」
「ルーク様、」
「ルーク様、明けまして」
「おめでとうございます、ルーク様」







「ルーク、明けましておめでとう」

ぴく。

がばっと振り返ると、後ろにガイが立っていた。外套を身に纏い、外は寒かったのだろう、剥き出しの頬は少し赤らんでいる。ガイはそのままルークの方へ歩み寄ろうとしたが、通りがかるメイド長に「外套を脱ぎなさい」と注意されて慌ててそれを脱ぐ。メイド長がいなくなるのを確認してから、ガイはこそっと苦笑いをする。
「危ない危ない…呼び捨てにしたのも聞かれてたら、せっかくちょっと豪華になってるってのに、食事にありつけなくなっちまう所だったな」
「ガイてめぇ…どこ行ってやがったんだよ」
「ああ、厨房の手伝いでな、足りないものがあったから買いに出てたんだよ」
「ご主人様への新年の挨拶をサボってか?」
紙袋を揺らしてみせるガイを腕組みしてじろりと見上げると、ガイはあ、と声を上げて困ったような顔をした。
「悪い、急ぎだったから…」
「俺の部屋来いよ」
「分かった、これ届けたらすぐ行く」
「だからっ、何で俺よりそっちが優先なんだよっ! 今すぐ俺の部屋来いよ!」
「すぐ行くから」
「〜〜〜〜っ」
折れない使用人にぷいと背を向けて、ルークは再び自室へと向かう。もういい。ガイなんか知らねぇ!
あ、ルーク、ガイが呼び止めるが無視。苛立ちをぶつけるように床を蹴る。
しかし、数歩歩いた所で足音は止まり、そして、
「………五分以内だからなっ!」
結局そう言い放って、大股ですたすたと部屋に戻るのだった。







「おっせーよっ!」
「悪い悪い」
ベッドに転がってうだうだとガイが来るのを待っていたルークは、大して待ってもいないのにガイの姿を見た途端文句をつける。ガイとしてもそんな事には慣れてしまっているのか特に反論もしてこない。
「それで、どうした? やけにご機嫌斜めじゃないか」
「おまえが勝手に街になんか行くからだよ」
「なんだ、おみやげでも欲しかったのか?」
「あ、アホ! ちっげーよっ!」
ベッド脇に立つガイがからかうようにそう言ったから、慌てて起き上がって全力否定。
「ガイが、挨拶に来ないからだろっ!」
「?」
「毎年毎年、真っ先に言いに来てたじゃん! おめでとうって、言いに!」




明けましておめでとう
今年もよろしく
ガーイ? それなぁに?
挨拶だよ、挨拶。明日は一年で一番最初の日だから、こんな風に挨拶するんだ
あけまして、おめでとう
ことしも、よろしく
そうそう、そんな感じ。明日、父上や母上に、そう挨拶するんだぞ
ガイには?
うん、俺や、皆にも言ってくれ。きっと喜ぶから
よろこぶ? これをいうと、みんなよろこぶの?
ああ、喜ぶよ
じゃあ、おれ、ガイにいちばんさいしょにいいたい!
俺?
だから、あしたはまっさきにおれんとこにきて!
はいはい、それじゃあ俺も、おまえに真っ先におめでとうって言う事になるな
…! ガイも、おれがいちばんだよ、ぜったい、ぜったいいいにきてね!

きまりだよ、ぜったいだよ!

おれは、ガイにいちばんによろこんでもらいたいの!




ははは、ガイが笑う。
「そんな事で怒るなんて、ルークもまだまだお子様だなぁ」
「んだよ…」
ぶう、と頬を膨らます勢いで、ルークはむくれた。せっかく一番の言葉をとっておいてやったのに。ラムダスに言われた時もメイドや騎士に言われた時も、ペールにだって言わずに、ガイの為に。
「そうだったな…約束してたもんな」
ぽつ、と呟かれた言葉を聞いて、一瞬ルークは「忘れてたのかよ!」と叫びたくなる。けれど踏みとどまれたのは、その言葉は明らかに、嬉しそうな響きを持っていたから。
ルークはガイの様子を確かめる為、ちらりとガイを見上げる。ガイはどこかぼんやりした瞳で――昔の事を思い出しているみたいだ――笑っている。あ、この顔。ルークは思わず、ガイの笑い顔を見上げて、見惚れる。じぃ、とあからさまに視線を投げかけたせいか、ルークの視線にガイは気付き、にっこり、満開の笑顔を咲かせる。ルークはう、と思わず顔を赤くしてしまう。毒気を抜かれる、とはまさにこの事だろう。苛々していた心の中がすぅーっと洗われてしまう。
だめだ、やっぱ、この顔好き。

「明けましておめでとう、ルーク。今年もよろしく」

改めて伝えられた言葉に、なんとなく根負けしたような気持ちになり、ルークはようやく、ずうっと言いたかった言葉をもごもごと口にする。

「明けましておめでとう…今年も、よろしく」





end


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