ルクガイ

□言いたがりと隠したがり
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初夏とはいえ、夜は冷える。
眠る前に、と執務室で雑事をこなしてきたガイの頬に手を当てるとほのかに冷たくなっていて、風呂から上がったばかりの自分にはそれがとても大事のように思えてしまい。
「あっためてやるよ」
と言ってはベッドに寝かせて抱きしめた。ガイは困ったような、照れたような苦笑をこぼしながらも、そっと抱きしめ返してくれる。それがとても、いとしい。
ーーーー…。
「ガイ」
「ん?」
「今俺、ガイのこと初めて、いとしいなって思った」
「……へー」
乾いた音をした返事に少し焦って、ルークはガイの胸に頬をつけたまま言葉を足した。
「今まではさ、すきだ、って思ってた。だいすきだって言葉が一番しっくり来てた。楽しい日も、悲しい日も、ガイのことがだいすきだった」
「……」
「でも今、ガイが俺を抱いた時、なんでかな、いとおしかった。今までは、くすぐったくてはしゃぎたくなるような気持ちが強かったと思うんだけど、もっとおだやかで、あったかい感じで、ガイのこともっともっと抱きしめたくなる感じがした。ガイを好きだーって気持ちは昔から変わらず最大限なんだけど、そん中でも微妙な変化はあるんだなって、今気付いたとこ」
「……そうか」
ガイが苦笑して、頭を撫でてくれた。子供にするようなしぐさを返事にするガイに、ルークはほんの少し口を尖らせる。
「ガイもそーゆーのねえの」
「んー?」
「俺にばっか言わせてずるくねえ?」
「おまえが自分からしゃべってるんだろ」
「そうだけど、聞きてーんだもん」
「んー…そこはあんまり自覚したくねえなー…」
そうガイがつぶやくと、ルークは途端に小さくなった。ガイの変化について、自分が言葉にさせていいことではないものはいくつもあるはずだ。すると今度はガイの方が焦ってルークに視線を当てる。それだけで意識を共有したような気がした。現にガイは、違う、とルークに訴える瞳をしていた。
「…ひとつだけ言うなら」
仕方ない、と苦渋を潰したような顔で、ガイは額に手を当てた。
その後、しばらくガイは唸っていた。ルークはそんなガイをじっと見つめる内に、口許がむず痒くなってきてしまう。口角が勝手に上がる。眉尻が勝手に下がる。自分の不安を打ち消すために、こんなにも頑張って自らの弱みを捧げてくれようとするガイが、やっぱりいとおしくて、仕方がない。
「……だ、きしめて、ほし、く、なっ…た、と、思う…前より…」
「…へー。じゃあ今、ガイめちゃくちゃ嬉しい?」
「…っ」
「へへ。つーか、ひとつだけとか言ってたけど、他にどんな候補があったんだよ。この際全部吐いちまえよ」
「…やだよ」
「叶えてやるのに。ぜんぶ」
横を向いてしまうガイを追い、ルークはその頬へキスをした。心配していた皮膚の冷えは、すっかり感じなくなっていた。







end


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