ルクガイ

□青空に落雷
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でき得る限り唐突になるようにキスを仕掛けた。ガイを腰掛けていたベッドに押し倒し、抵抗しかけた両手には指を結び、声を出せないように始めから舌を絡めた。外はまだ昼の様相で眩しいほどに明るい。だからこそ濃密に交わった。さわやかな空気に負けてしまわないよう、夜のひとときの雰囲気を引き出したかった。
「ん…っ」
ガイが呻いた。抵抗半分、動揺半分という声だ。突然の事態に頭が回っていないのかもしれない。回り出す前に、呑み込んでやる。
「だめ……」
呼吸をさせるために口を離した一瞬、そう告げられるけれど構わずに再び塞いだ。どうせまたTPOとか常識を問うてくるだけだ。状況は自分達の部屋にふたりきり、合ってないのは時分だけ。それはそんなに重大なことだろうか。共に時を重ねられること以上に? ルークの中で、そしておそらくガイの中でも、答えは否のはずなのだ。だから不都合はなにもない、だろう?
(だめ、って、格好だけ。口癖みたいなもんなのかな。それともわざと煽りたくて言ってんのかな。俺も、ガイにだめとか、言ってみてー…)
こちらががっつき、ガイは受け入れるのがいつもの形だ。ガイのたしなめる声を押し切るのも楽しいけれど、こちらが「待て」を言うほど求められた記憶はほとんどなかった。
(つーかガイから仕掛けてくることほとんどねーからなー…いつも俺からだ。仕掛けてくるの待ってたらどんぐらい空くんだろ。まあ、空かさねえんだけど。こっちがしびれ切らすの目に見えてっしなー)
「う…」
びく、とガイの体が震えた。重ねた指をぎゅうと握り返され、首筋の辺りにただよう熱が一段上がったような気がした。ルークは唇を離し、大きく呼吸するガイからそっと離れた。これ以上やったら本当に怒られそうだ。本番は夜の帳が降りた後だ。支障が出ては困る。
「へへ。ちゃーんとTPOは弁えたからな!」
だから怒んないで、と両手を上げてにっと笑った。ガイには責める目つきでじろりと睨まれてしまった。




* * *




視界がぐるりと回転し、あっという間に赤で埋め尽くされる。呼吸と身動きを突然奪われ驚くことすら追いつかないのに、口腔内ではもうすでに熱い舌が好きに動いていた。
「ん…っ」
油断した、とガイは思った。こんな具合に急にじゃれつかれることはよくあるので、陽の高い内に自室にいる際にはなるべくベッドではなく椅子に掛けるようにしていた。だけど今日は日頃の疲れも溜まっていたのかついベッドに腰を下ろしてしまった。まあ、寝具というものは抗い難い脱力効果を持っているものなので、ついついそのまま日程帳の確認などを始めてしまった訳で。その結果かそれは手からこぼれ、入れ替わりに熱いてのひらが巻きついている。身体に、唇に重ねられた熱と同じ。これもまた抗い難いものだ。まだ、昼間なのに。
「だめ…」
一瞬唇が離れた隙をついて制止するも、言い終わる前にまた喰われた。押さえられた両手に力を込めてみるものの状況を覆すには至らず、逃げ場の気配がまるでない。まさか本気で今からことに及ぶつもりだろうか。本当に、いつも突拍子がない。「ガイが悪い!」と顔を真っ赤にして心当たりのないことを言われることもあるが、今の自分が一体何をしていたと言うんだろう。
(夜だって、するくせに。こっちの体力も精神も根こそぎ奪っていくくせに。それでもまだ足りないのかね。可能な限り応じているし、無理だと思っても譲ったりすることも結構あんのに、こっちの気も知らないで、限界だって、知らないで…)
それでもルークは、ただこちらをぼろぼろにするだけじゃない。求めたもの、他の何にも代えられないもので満たしてくれる。こちらは同じように返せていないのだろうか。ルークの求めに応じられていない?ーーーーそれは、望む所じゃない。
「う…」
ぞくりと肌に走った感覚を認め、ガイは自ら、退路を閉じる。ルークの手を握り返し、開いたままだった瞳を伏せた。いいや。昼間だろうが何だろうが。ルークが求めているのなら。応えることになにも、不都合なんかーーーー
ふっ、と、また突然に身体にかかる負荷がなくなった。困惑して目を開くと、ルークは早々にベッドから引き上げてしまった。そして両手を上げてにこにこと笑い、
「へへ。ちゃーんとTPOは弁えたからな!」
とのたまってくれた。
昼の陽光が眩しい。それを認識したと同時にすうっと冷静という名の雫が頭の天辺から腹の底まで落ちた気がした。考えあぐねたことは跡形もなく霧散し、ガイはにくたらしさを込めてルークを睨んだ。残った熱はどうしてくれる。声を大にして言いたい。タチが悪いのは、おまえの方だ。




end


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