読み物

□雨の日は。
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雨の日は嫌いだった。


活発で、何よりも遊ぶことが好きだったヨハンは、外に出て走り回れないこの鈍い灰色が恨めしかった。





雨の日は。






しとしと

空から零れ落ちて来た雨が地面に染みを作り、アカデミアに影を落とした頃、十代は廊下の窓から外を眺めているヨハンを見つけた。

「お、ヨハンじゃん」

こんな所で何をしているのかと続けようとしたが、余りにも真剣に外をじっと眺めているので、十代も同じように外を見た。
別に何があるというわけではなかったが、ヨハンは空を見ていた。
天上は灰色に包まれ、吸い込まれそうないつもの青の面影はない。

それでも空を見上げるヨハンを不思議に思っていると、ヨハンが口を開いた。

「なあ十代、十代は雨の日ってどう思う?」

「へ?そりゃあ…外で走り回れないし、ひなたぼっこは出来ないし…」

思い付く限りの理由を指折り数える十代を見て、ヨハンは苦笑した。

「嫌い?」

「うーん、嫌い、じゃないぜ」

「どうして?」

「雨が降っててもデュエルはできるしな!」

「はは、まぁそうだなー。狭い室内じゃデュエルディスクは使えないけど」

心底同意するように、ヨハンは微笑んだ。

「でもなんでそんな事聞くんだ?」

「…オレは嫌いだったからな」

「…ふーん」


また空を見る。
空は相変わらず雨を落とす事を止めていない。


そう、嫌い、だった。


今でこそ十代の言うようにデュエルがあるけれど、もっと幼い時はそれが無かったんだから仕方がない。


だけど。

そうじゃなくて。

鈍い色が過ぎ去った後の空の色は格別だと知ったから。

そして空に架かる橋の美しさに、心奪われてしまったから。
虹を下から見るとどう見えるのか気になって、一日中追いかけたこともあった。

勿論虹の下に行くことは叶わなかったけど。
そんな事を思い出し、フと笑みが零れる。


「今は嫌いじゃない」

「そっか。俺は嫌いじゃ無かったけど、今は好きかな」

「?」

「ヨハンの珍しい顔が見れたからな」

「…そんなに変な顔してたか?」


首を傾げるヨハンを余所に、十代は空を見上げる。
いつの間にか雨足は弱まり、灰色の隙間から青空が顔を覗かせていた。


「虹が出るといいなあ」

「きっと出るさ!」

「…ヨハンが言うとホントに出そうだな」

「はは、なんだそれ」

「虹の向こうってどうなってんのかなって、考えた事ねーか?」

「あるある」

「誰も行ったこと無いんだもんな、考えたらワクワクしてくる!」

「よし、今度二人で行ってみるか!」

「二人で?」

「あぁ!」

「いつものヨハンだ!」

「ん?」



十代となら行ける気がする、誰も見たことのない虹の向こうへ。


その時は、虹を下から見上げようか。十代と二人で。



雨は、止んだ。









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