読み物
□雨の日は。
1ページ/2ページ
雨の日は嫌いだった。
活発で、何よりも遊ぶことが好きだったヨハンは、外に出て走り回れないこの鈍い灰色が恨めしかった。
雨の日は。
しとしと
空から零れ落ちて来た雨が地面に染みを作り、アカデミアに影を落とした頃、十代は廊下の窓から外を眺めているヨハンを見つけた。
「お、ヨハンじゃん」
こんな所で何をしているのかと続けようとしたが、余りにも真剣に外をじっと眺めているので、十代も同じように外を見た。
別に何があるというわけではなかったが、ヨハンは空を見ていた。
天上は灰色に包まれ、吸い込まれそうないつもの青の面影はない。
それでも空を見上げるヨハンを不思議に思っていると、ヨハンが口を開いた。
「なあ十代、十代は雨の日ってどう思う?」
「へ?そりゃあ…外で走り回れないし、ひなたぼっこは出来ないし…」
思い付く限りの理由を指折り数える十代を見て、ヨハンは苦笑した。
「嫌い?」
「うーん、嫌い、じゃないぜ」
「どうして?」
「雨が降っててもデュエルはできるしな!」
「はは、まぁそうだなー。狭い室内じゃデュエルディスクは使えないけど」
心底同意するように、ヨハンは微笑んだ。
「でもなんでそんな事聞くんだ?」
「…オレは嫌いだったからな」
「…ふーん」
また空を見る。
空は相変わらず雨を落とす事を止めていない。
そう、嫌い、だった。
今でこそ十代の言うようにデュエルがあるけれど、もっと幼い時はそれが無かったんだから仕方がない。
だけど。
そうじゃなくて。
鈍い色が過ぎ去った後の空の色は格別だと知ったから。
そして空に架かる橋の美しさに、心奪われてしまったから。
虹を下から見るとどう見えるのか気になって、一日中追いかけたこともあった。
勿論虹の下に行くことは叶わなかったけど。
そんな事を思い出し、フと笑みが零れる。
「今は嫌いじゃない」
「そっか。俺は嫌いじゃ無かったけど、今は好きかな」
「?」
「ヨハンの珍しい顔が見れたからな」
「…そんなに変な顔してたか?」
首を傾げるヨハンを余所に、十代は空を見上げる。
いつの間にか雨足は弱まり、灰色の隙間から青空が顔を覗かせていた。
「虹が出るといいなあ」
「きっと出るさ!」
「…ヨハンが言うとホントに出そうだな」
「はは、なんだそれ」
「虹の向こうってどうなってんのかなって、考えた事ねーか?」
「あるある」
「誰も行ったこと無いんだもんな、考えたらワクワクしてくる!」
「よし、今度二人で行ってみるか!」
「二人で?」
「あぁ!」
「いつものヨハンだ!」
「ん?」
十代となら行ける気がする、誰も見たことのない虹の向こうへ。
その時は、虹を下から見上げようか。十代と二人で。
雨は、止んだ。
→後書き