読み物

□わだかまり
2ページ/5ページ




確かに自分は成長した。

だが、この感情はなんだ?
望んだものではない、自己の深い所から自然と沸いたものだ。
こんな理解できないものが、何故自分の中にある?

何故苦しくなる?
何故些細な事で―…?

何故アイツを見ていると―…




違う。



これは自分ではない。
こんな理解できないものが、自分にあってはならない。
ましてやこれが成長で得たものだなんて、認めない。


『…せっかくの気分が台無しだ…』

自然と出る溜め息の理由も、授業中、いや、視界に入ると、知らず十代を目で追っている事も、万丈目には理解できなかった。
自分でも自分が分からない、どうしようもない衝動を持て余し、また別の意味の溜め息が出る。


授業が終わる。
結局授業中は始終そんな事ばかり考えていて、まったく集中できなかった。
まさか。
自分とあろう者が!


くそ、俺がこんなにも悩んでいるのに、どうしてアイツは…

と、またいつの間にか十代を見ていた自分に気付き、思考の袋小路に行き詰まる。そこには何もない。ただ行く手を阻む壁が在るのみ。
…悩む?何を?決まっている、自分が分からない事に悩んでいるんだ。
そして恐らくその原因は遊城十代だ。
人の領域に軽々入り込んで来て、頼んでもないのに俺を作り変えた。
その当の本人はと言うと、お友達とやらと楽しげに笑っている。


自分とは対象的な十代を疎ましく思う。
こんなにも俺を苦しめておいて、お前は何故そんなにも笑っていられる?

さっきまでとは違う、黒く濁った感情に吐き気がする。
これは誰に対しての感情だ?十代?自分?それとも十代の側にいる輩共?
十代が何をしていようと俺には関係の無い事だろう!
まして…自分が十代によって動かされるなんて事はあってはならないはずだ!
アイツと俺は―…

あいつと、俺は…

目まぐるしく入れ替わる己の感情から逃げるように、万丈目は走っていた。
どこに行こう、などと言う考えは頭に無い。
ただ視界から十代が消えて欲しかった。

ただ自分を苦しめるだけの存在から遠ざかりたかった。
この訳の分からなくなった自分から、元の自分に戻りたかった。

―元の自分がどんなものだったかなんて、もうすっかり忘れてしまっていたが。


気が付くと、レッド寮の自室の扉の前にいた。

『帰巣本能、てヤツか…』

と思った所で、ここが既に自分の帰る場所だと認識している事に気付いた。
とても以前なら住めた所じゃないこの寮に、自分が居続けられる理由。
あぁ、またお前か。
お前には助けられっぱなしだな、とでも言えば満足か?
その後に続く言葉。

「―…、それで消えてくれるなら、何だって言ってやる…」

「何が消えるんだ?」

ビクッ、と、不意に背後から聞こえた声に身体を一瞬強張らせる。
そして一呼吸おいて振り返る。
今一番見たくない顔がそこにあった。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ