読み物

□不器用な
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「(だるい…)」

意思の利かない重い体を、万丈目は面倒そうに引きずり、スプリングのきいたベッドに投げ出す。
自分の今の状態の原因を辿っていけば、すぐに赤い制服と止まることを知らないように活発に動く、栗色の瞳の持ち主が思い起こされる。

彼の事を考えたいと思ったことは一度も無い。
ただ知らぬ間に考えてしまっている。
振り払うように他の事に集中するも、後は寝るだけという他は何も無い夜になると、否応なしに彼―…遊城十代を頭に描いてしまう。
そうなると中々寝付けず、胸の軋みを抱えたまま夜が明ける。
そんな日が続けば、身体も不調を訴えるのは明白だった。


「(お前のせいだ…)」

と愚痴を言ったところで何も無い。直接的な要因が存在しないのは分かっていたが、それでも口にせずにはいられなかった。

「(…情けないな)」

講義欠席の連絡すら億劫で、思考自体もぼんやりとしていて。

「(十代)」

ただ無性に、十代に会いたいと思った。
会って、恨み言の一つくらい言ってやりたかった。
意味が分からない、とあいつは言うだろう、と思いを馳せたところで、万丈目の意識は途絶えた。


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