読み物

□亡霊に口付けを
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なあ十代、いつだって俺はお前に本心を伝えられた事は無かったが、短くも永い旅を経て急激に成長したお前には、この感情を感じる事は出来なかったのか?
なんていうのは、勿論、希望でしかなくて。

置いて行かれたような錯覚の苛立ち、友人の名を叫び続けるお前の姿に、心には目に見えない嫉妬の刃。

いつかお前を傷付けてしまう気がした。いや、それなら散々してきたはずだ。
何故なら俺は優しい人間では無かった。強い人間でも無かった。お前を守り切れるほどの力なんて持ち合わせていなかった。
歯痒い感情が、幾度となくお前を苦しめた。
それなのに、どうして。何も無かったような顔して、高みへ翔けていくんだ。俺の手の届かない場所へ。

だから、お前が俺達の前から姿を消した時、計り知れない虚しさと共に、少しばかりの安堵があった。

そんな自分が、嫌になった。




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