パラレル部屋

□夢みるアンドロイド
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真っ白な闇の中を漂うような俺の耳に小さな声が聞こえた・・・

柔らかく小さな手が差し伸ばされる・・・・その温もりが頬に触れる。

屈託のない笑みが自分に注がれる・・・


なんだ?この感覚は・・・・・






「きゃぅ!!」
室内の片隅に忘れ去られたように置きっ放しになった一体のアンドロイド・・・
『コンラート』の足元に赤ん坊が嬉しげな声を上げながらすり寄ってくる。

ゆっくりと瞼を開いた『コンラート』の感情を帯びない瞳に小さな人間の姿が映った。

最初・・・何をすべきかわからず・・・
『コンラート』は自分の足元に座り込みニコニコと自分を見上げ屈託なく笑う赤ん坊を無感情の瞳で見下ろしていた。

氷のように固まった表情のままの『コンラート』に対し・・・赤ん坊はなんの躊躇もせずに手を伸ばす

『コンラート』自身・・・どうすべきか理解も出来ず・・・
でも何故か気になり、膝を折り腕を伸ばし・・・赤ん坊を抱き上げた

初めて・・・だというのに赤ん坊はすっぽりと『コンラート』の腕の中に納まり・・・
満足気に微笑んで小さな手を伸ばし彼の頬を叩いていた。

腕の中に初めて感じた温もりに・・・『コンラート』の感情を浮かべない瞳が細められる。所謂”疑問”を抱いたのだ。

過去の彼のデータの中をいくら検索しても見つからない・・・・わからないものが吹き上げる。

「ゆーちゃん?どうしたの??」
母親らしい女性が駆け寄ってきた。

「あら?遊んでもらっていたの?よかったわね・・・ありがとう、優しいアンドロイドさん」
にっこりと微笑んだ母親は腕の中の赤ん坊を『コンラート』から受け取った。

赤ん坊の去った腕の中が『寒い』・・・・
『コンラート』の中のデータバンクが激しく点滅しているのがわかる。

こんなデータバンクのシステム稼動は・・・初めてだ・・・



「ゆーちゃんはあっちで優しい乳母(ナニー)を探してあげるから・・・・ね?」
と抱き上げられた赤ん坊は突然母親の腕の中でひどくむずがった。

その泣き声が余りに切ない・・・・

『コンラート』は追いかけるように手を差し伸ばした。
赤ん坊の余りに切ない泣き声が耐えられない・・・
この子を泣かせたくない・・・

「え?ゆーちゃんを抱っこさせて欲しいの?」
無表情のまま腕を伸ばすアンドロイド(それも男性型)に戸惑いつつ・・・
それでも母親は泣きじゃくる赤ん坊を『彼』に託した。

赤ん坊は『コンラート』の腕に抱かれると・・・安心したように小さく何度かしゃくりを上げ・・・そのまま眠ってしまった。

「驚いたわ・・・・ゆーちゃんが寝ちゃった・・・・すごいわね?貴方」

母親は両頬に手をあて・・・ほぉ・・・と息をついた。

「う〜〜ん・・・そうね・・・見た目私好みでかっこいいし・・・・なによりゆーちゃんが懐いてるし・・・・

いいわ♪貴方に決めちゃおうかしら♪」


無表情のまま眠る赤ん坊を抱いたアンドロイドの肩に手を伸ばし・・・・その母親はにっこりと笑った。


2007/07/01〜2007/07/12公開
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