パラレル部屋
□夢みるアンドロイド〜エピローグ集〜
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ユーリの意識が戻った。
だが・・・・それはただ『目覚めた』というだけのことで・・・・
目覚めたユーリは一言も言葉を発することはなかった。
ただ、ベッドの背に身体を預けるようにもたれさせたまま・・・
瞳は何もない空を見つめたまま煌くような光を失っていた。
「渋谷?入るよ?」
入室の合図後一瞬の間が開いて、病室の扉が開いた。
「調子はどう?」
部屋へ入ってベッドに佇むユーリに声をかけられる言葉に対しても返る言葉はなく・・・それでも村田は諦めることなく話しかけ続ける。
「外はすごくいい天気だよ?まさに真夏日ってヤツだね。こう暑くちゃ僕は参っちゃうよ。
本当に暑くってやになるよ・・・そういえば君は夏が好きだよね?
いつもそう言っていたよね?」
昨今では珍しい広い公園の萌えるような芝生の上で君と彼が呆れるくらい元気にボールを投げ合っていた姿が目に浮かぶ・・・・。
そういいつつ真夏の日差しを遮るために覆っていたシェードをスィッチ一つで開放する。
一面の窓から眩しいほどの陽光が病室内に差し込み、ベッドの上のユーリの横顔も明るく照らし出す。
・・・・・だが、その強い日差しにもユーリは無反応だった。
そんなユーリの姿に村田は小さくため息をつき、彼の傍らのイスに腰を下ろした。
「渋谷・・・・今日は何日か知ってるかい?7月29日・・・・君の誕生日だ。今日で君は16歳だ。おめでとう」
その言葉にもユーリは何の反応も示さない。
喜びも悲しみも怒りも・・・全て失ったまま、既に数週間が過ぎようとしていた。
元々華奢だったユーリの身体はすっかり痩せ細りパジャマから覗く手首は村田でも一掴みできそうなほどだった。
「今日はね、君の両親から預かってるものがあるんだ。誕生日に是非君に見せたいものらしいよ?」
小さなディスクを投げ出したままのユーリの指先に触れさせる。
「セットしてもいいかい?」
まっすぐ前を見たまま何も映さないユーリの瞳を覗き込むように村田は声をかけると、スッと立ち上がりサイドテーブルの再生機にディスクをセットする。
ディスクが静かに沈みこみベッドに備え付けられたモニターがユーリの視線にあわせるように移動する。
小さな機械音の後・・・・・・・・・
モニターが人影を映し出した。
『ユーリ・・・・16歳おめでとう』
コンラッドだった。
コンラッドが爽やかな優しい笑みを浮かべながらモニターの向こう側に存在していた。
2007/10/17〜2007/10/26