パラレル部屋

□夢みるアンドロイド〜エピローグ集〜
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少しずつユーリの体調も戻りつつあった。
が・・・・以前のような彼らしい眩しいほどの笑みはその頬に浮かばない。

いつも何か思いつめたようにじっと考え事をしている。


「ユーリ?気分が悪いのか?」

仕事の合間を抜け見舞いに来たヴォルフラムが心配そうに気遣う。

「ん?いや・・・・大丈夫だよ?ヴォルフ・・・・ごめんな?いつまでも心配かけて」


消えそうな笑みを浮かべるユーリにヴォルフラムの心は痛む。

「本当に・・・お前はへなちょこだな!僕になど気にかけずとも自分の体調だけ考えればいいんだと何度言ったらわかる」

乱暴なほどの言い回しながら・・・・それがヴォルフの心配の仕方だと長い付き合いのユーリにはわかっている。
ふいっとそっぽを向くヴォルフラムの横顔をユーリは静かに微笑みながら見つめた。

「・・・・そうだ、ユーリ。お前に頼まれていた書籍持ってきたぞ」

突然思い出したようにヴォルフラムは足元から数冊の本を取り出した。

それらはどれもかなり分厚い専門書だった。

「お前がこんなものを読むのか?」

「ありがとう」と嬉しそうに微笑みながら受け取り膝の上で一冊ずつ本を手にするユーリにヴォルフラムは小首を傾げる。

知能指数が高いと評価され既に国家機関の研究員として招致されている村田ならいざ知らず、
以前のユーリなら絶対に読まない類の本だ。

美しく弧を描く眉を顰めるヴォルフラムにユーリは笑いかける。

「俺やっとやりたいことが出来たんだ。これはそのための前準備なんだ」

そういうとユーリは手元のリモコンのスィッチを押した。
スッとモニターに画像が映し出される。

あのコンラッドの『誕生祝いのメッセージ』

あれから何度この画像を見つめたことだろう。
変わらない優しい銀の星を求めただろう。


「知ってるか?ヴォルフ・・・・
アンドロイドってさデータチップが僅かでも無事だとその人格のまま再生が可能なんだってさ」


モニターの向こうから自分に笑いかけてくるコンラッドを幸せそうに見つめながらユーリは穏やかに語った。

「俺・・・『コンラッド』を探そうと思うんだ」

「な・・・・何を馬鹿なことを言ってるんだ?判ってるのか?!このへなちょこ!!」

「一応判って言ってるつもりだけど?ヴォルフ」

「コンラートはシャトルの爆発に巻き込まれたんだぞ?それも小惑星帯間近な宇宙空間で。そんなところからどうやって探そうというんだ?!」


宇宙はまさに無限に広がっている。そんな空間で手のひら大にも満たないほどの欠片をどうやって探そうというのだ?!


「そうだね・・・・尋常の考え方じゃないよな・・・・普通なら考えもつかないよね・・・・
もう俺の頭の中は狂ってるのかもしれない。
でもさ・・・・たとえ天文単位ほどの確率でもそれが絶対的0でない限り・・・俺はコンラッドを探したいんだ。コンラッドが俺を待ってるって・・・・そんな気がするんだよ・・・・」


ユーリはヴォルフに持ってきてもらった本を愛しそうに指でなぞった。

そのタイトルは
『宇宙理論』『宇宙船機関理論』『宇宙航路論』

その他・・・・宇宙(そら)を飛ぶために必要な学問類・・・・


「・・・・・・たとえ限りなく可能性が0に近くても・・・俺自身があの空間に行ってコンラッドを見つけ出してやる。絶対に」


ユーリは硬く拳を握り締めた。

いつの間にかユーリの漆黒の瞳は決意に漲り煌いていた。




2007/10/17〜2007/10/26
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