パラレル部屋

□夢みるアンドロイド〜エピローグ集〜
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”夢みるアンドロイド”エピローグ2〜



初め、その計画に村田は我が耳を疑った。

というか、彼の気がふれたのではないか・・・・とすら思えた。

「俺は至って正常だし、ちゃんと理性も保ってるよ?そんな心配そうな顔するなよ・・・村田」

目の前のイスに深く腰を掛け膝の上で持て余し気味に両の指を絡ませながらユーリは静かに笑った。


その寂しげな笑みすら彼らしいものには思えず居合わせた者の胸を抉る。

「渋谷・・・自分の言ってる意味判って言ってるのかい?」

「あぁ・・・無論だ・・・・村田」

村田の問いにユーリは小さく・・・しかしはっきりと頷く。
そのどこまでも深い漆黒の瞳を反らすことなくユーリは友人を見つめた。

その視線の先で・・・
大きく一つため息をついた村田はメガネを外し軽くレンズを拭くともう一度メガネを掛け直し、改めて友人を見据えた。

「君が今熱望していることはサハラ砂漠の真ん中に落とした0.1カラットのダイヤを探すよりも困難なことなのかもしれないんだよ?本当にわかってるのかい?」


ある程度空間座位が特定されているからと言って・・・・手のひら大にも満たないデータプレートを宇宙空間で探し出そうなどという無謀でおろかな行為は・・・・。

ましてそのプレートは無傷な保障はどこにもない・・・むしろ壊滅的に損傷していて再生不可能の可能性の方が大きいというのに・・・・・。

それでもユーリは諦めていなかった。

あれから既に5年余りの時が流れ去っていた。

その間ユーリは自分が考え付く限り必要と思われる資格を手に入れていた。

宇宙航海士のパスは勿論のこと。
航空機技術士の資格
高速通信技士の資格
宇宙作業技士の資格

自ら宇宙を航行するのに必要と思われるありとあらゆる資格をユーリは全て手にしていた。
いや・・・そればかりではない。

ユーリは周囲のものたちが目を見張るほどの勢いで様々な知識を叩き込んでいた。

「俺がただ意味もなくいろんな資格や学士号を取っていたと思っているのか?村田・・・・」


ユーリの瞳が細く光る。

『コンラッド』を必ず探し出す・・・・・
ユーリの中でその思いは一層強くなるばかりだ。

胸の中に輝く銀の星をもう一度この手に取り戻す。


「確かにお前の言うことに間違いはないよ。俺がしようとしていることは確かに無謀だし、馬鹿げていると思う。だけど・・・・だけど、コンラッドに戻ってきてほしいんだ。もう一度・・・昔のように俺の傍で笑ってほしい・・・・・」


クッ・・・・・と唇をかみ締める。

『ユーリが許してくれるなら・・・俺はいつもユーリの傍らに立って貴方を護り続けたい・・・』

アンドロイドという存在ゆえコンラッドは何かを望むといった行為は一切しなかった。

そのコンラッドが唯一願った思い・・・・・。

「たった一つだけでいいから、俺はコンラッドの希望を叶えてあげたいんだ・・・・」


フッと息をつき頭を振ったユーリは顔を上げた。

「いや・・・違うな。それは俺自身の願い出もある。俺はコンラッドと並んで生きて行きたいんだよ。ただ・・・それだけなんだ」

『ただそれだけ・・・・』
その『ただ』がどれほど大きな意味を持つのか・・・・

君は気づいているのだろうか?

君のその無償の愛が機械に熱い思いを植えつけたのだと・・・・

「馬鹿げてるって言いたいんだろ?」

ほんのり顔を赤らめ拗ねたように上目遣いで睨むユーリに村田は苦笑する。

「いや・・・・そんなこと思ってもいなかったさ・・・・

君のことだ。何かしら思惑があっての行動だと見越してはいたんだけどね?さすが・・・というべきなのか・・・・でもさすがは渋谷というか・・・・穴が多すぎるね」

「穴って・・・なんだよ?!穴ってッ!!」


ムッとしながらいぶかしむユーリの前に、村田は自分の脇に置いたままにしてあったポーチの中から一枚の書類を取り出し目の前のテーブルの上に置いた。


「・・・・渋谷。これに署名捺印するといいよ」

「なんだよ・・・これ」

テーブルの上にヒラリと置かれた一枚の紙切れを手にしたユーリの瞳は徐々に見開いてゆく。

「む・・・村田・・・・これ・・・・」

「シャトルを所有し業務用として登録しなくっちゃ話になんないだろ?ちゃんと押さえてある。ま、先立つものが不安だったから中古だけどね?宇宙空間に漂ってるごみの回収作業を業務とするんだ。中古でも充分だろ?
ったく・・・・自分でシャトルを動かすことばかりに頭が行っちゃってたんだろう?こういう細かいことはどうするつもりだったんだい?」

そういうと村田は額にかかる前髪を掻き上げた。

「本当にしょうがないね・・・僕が机上の業務その他・・・煩わしいことを引き受けてあげるよ」

「村田!!!やっぱりお前なら判ってくれると思ったよ!!」

フン・・・と業とらしくそっぽを向きつつ鼻の頭を赤らめる村田の背中からユーリは抱きついた。

「しっかりと働いてよね!あのシャトルにはがっちりローンが組んであるんだから・・・・。僕が経営経理を担当する以上絶対に赤字になんて許さないよ?判ってるよね?覚悟はある?」

「判っております。肝に銘じます。村田様〜〜〜〜」

ふざけて拝みまくるユーリの仕草に村田は堪らず吹き出してしまう。

それにつられユーリも吹き出してしまい・・・・互いの漆黒の瞳を見合わせ互いの肩を激しく叩きあい、二人は大いに笑いあった。





それから数ヵ月後、
宇宙空間に放置されたままの厄介な異物を回収し処理する企業が立ち上がった。


それまで誰も手をつけなかった(あまりに手間がかかり面倒で儲けが少なそうに見えた)分野の業種だったので、その企業はあっという間に業績を伸ばしていった。


2007/10/28〜2007/11/06
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