パラレル部屋
□今日から「マ」のつく仔猫日記
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「・・・・・・仔猫?」
あまりの意表に男は一瞬我が目を疑った。
巨大な魔物が霧の様に消え去り、後に残っていたのは怯えて身を縮こませている小さなネコの姿。
樹の窪みに身を必死で隠し小さく「めぇ・・・」「めぇ・・・」と鳴き続けている
ただ・・・普通のネコではない
とにかく・・・頭の先から尻尾の先まで艶やかなビロードのような漆黒の毛で覆い尽くされているのだ。
それに普通のネコは尻尾は一本なのだが・・・・そのネコには
「2本??」
しなやかな尻尾が2本、そのお尻からぶら下がっていて・・・・
仔猫は怯えその2本の尻尾を前足で抱きこむようにして震えていた。
でも・・・震えつつ視線はしっかりと男を捕らえていた。
どうしたらいいのかわからない・・・そういった風情に男の方が途惑いつつも・・・そっと近づいてゆく。
他に害なすような魔物ならいざ知らず・・・・少なくとも今この愛らしい魔物に敵意は感じられない。
いや・・もしかしたら最初から敵意など持ち合わせていなかったのかもしれない。
その証拠に風に吹き飛ばされて背を打ちつけたときに出来た傷以外、男はどこにも傷を負ってはいなかったのだ。
「そんなに怖がらないで・・・」
ネコの視線に少しでも近づけようと男は身を屈め、樹の窪みに蹲ったまま地を縮めている仔猫にそっと手を差し伸べた。
ビクッ!!
小さな頭の上で三角の耳が大きく跳ねる
「めっ!!」
蹲ったままの小さな身体を出来るだけ怯えさせないように気遣いながら近づいて、そっと覗きこんだ男は思わず息を呑んだ。
・・・・・美しい・・・・・
こんな澄んだ漆黒・・・見たことがない・・・・
仔猫はその全身も漆黒なら水膜を帯びたように潤むその瞳も煌くような黒水晶を髣髴とさせるような漆黒を有していたのだ。
震えつつ、自分を見上げてくる小さな生き物の澄んだ瞳に男は心を奪われた。
2007/11/29〜2007/12/07