パラレル部屋

□微甘苦
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まだ深夜というにはあまりに浅い時間である。
“同窓会”という名の飲み会に集う者たちにとってはまだまだ宵の口。なのに・・・・

学生が集まるのに丁度いい居酒屋は既に満員と言ってもいいほどの人が溢れている。
その店内の一番奥まった座敷にてその会は繰り広げられていた。

もっとも・・・“同窓会”といっても


「君たちもよくやるね?中学高校とエレベーター式につるんで来て、今は大半同じ大学に通ってるんだろ?
一々“同窓会”って称するのも変じゃないのかい?意味もない・・・・」

呆れたように大げさなため息を吐いたものに対し、傍らに座っていたモノが「違わない!」と大きく笑う

「何でもいいじゃないか!とにかく集まる理由なんて大した意味も必要ないだろう?」
といいつつ傾けられた瓶から勢いよく泡立ちながら注ぎ込まれるものを手にしたコップに受け止める。


目の前のテーブルにはいくらか手を付けられた料理と共に既に空になったビール瓶が何本も転がり
周囲にはアルコールに脳内を侵されてるらしい赤らんだ顔の昔なじみの顔がいくつか連なる。

「にしても・・・学校卒業してまだせいぜい1年経っただけじゃないか?・・・同窓会なんて大げさな・・・・」
しらけた・・・とでも言いたげに村田・・・は手にしていたコップの中のビールを一口含んだ。

よく冷えてコップに水滴を生んでいる琥珀色の発泡がゆっくりと喉元を過ぎてゆくのがわかる。

「何言ってんだか!村田ったら!あんたみたいに外部行っちゃった人だっているんだもの。
こうでもしないと集まりっこないでしょ?」


いかにも今時の女子大生・・・といった風情で面影もないほどにすっかり化けた昔の同級生が
「何か言い返して見なさい」とでも言いたげに下から覗きこんでくる。






中高大一環教育を柱とした・・・よく言えば私立お嬢ちゃまお坊ちゃま学校であるその学校から初めて
この国随一の難関国立大入学という快挙を成し遂げた英雄に対し、昔なじみの女たちからの視線は熱い。

確かに親の七光りを背負う階級の男たちは周囲にごまんといる。
だが・・・著名な国際弁護士を両親に持つ目の前の村田はそれに加え高学歴という付加価値まで背負っているのだ。
女たちの目の色が変わらぬはずもなかった。


だが・・・そんなもの村田にはなんの興味もなかった

手にしたくて出来なかった・・・
口にしたくても失うのが怖くて出来なかった
酸っぱい思い出が今も深く胸に刻まれている・・・・


知らずグラスを握る手に力が篭る。
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