パラレル部屋
□微甘苦
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そのときだった。
店内に妙なざわめきが湧き上がった。
そのざわめきの波は徐々に広がりを見せる
「なんだ?」
入り口付近に凭れていた一人が気づき首を傾げると座敷の入り口を塞いでいる襖に手をかけるとガラリと開けた。
「あ・・・いたいた」
店内を探していたのか・・・・声の主がこちらに向って手を振っていることに気づく。
「遅いぞ、橋本」
「ごめんねぇ〜・・・駅前ですごぉ〜〜〜く珍しい子みつけちゃったんだ。懐かしいよ」
遠慮することないって!
開け放たれたままになっていた襖から顔を覗かせた橋本は後ろを振り返り何かを引っ張った。
その勢いに乗せられるように小さな人影が遠慮がちに室内に顔を覗かせた。
「えっと・・・・久しぶりぃ・・・・・・ぃ?」
顔を覗かせた人物は頬を赤らめ照れくさそうに小さく手を振った。
「・・・え?」
その瞬間
それまでの五月蝿さが嘘のように室内に沈黙が走った。
室内にひしめくどの顔も目を見開きそのままの表情で固まっている。
中には手にしたコップのビールが零れているのに気づいていなかったり
口元がぽかん・・・と開いたままになってしまっているものまでいる。
その中、一番最初に我に返ったのは村田だった
「・・・し・・・ぶやなのか?本当に渋谷なのかい?」
「あぁ・・・・俺だよ?村田・・・・本当に久しぶり」
にっこり笑ったこぼれるような愛らしく照れくさそうな笑顔
煌くように澄んだどこまでも深い漆黒の瞳
それに対成すような艶やかな漆黒の髪
下手なアイドルなど裸足で逃げ出しそうなほどの可憐さなのに・・・
自分のことを相変わらず『俺』と呼称する不釣合いさ・・・・
そして・・・・どこまでも純粋で素直で無垢でまっさらな・・
誰もを魅了する魂の持ち主・・・・
あぁ・・・・やっぱり君なのか?!本当に君なの?
村田のメガネの奥が僅かばかり潤んだ・・・・・ように見えたのもつかの間
周囲はどよめいた。
皆が一斉に我に返ったのだ。
驚き大きく零れそうな瞳を一層見開いた有利を囲みこみ誰もが口々に喚くように騒ぐ。
「渋谷ッ?!」
「やだぁ!本当に有利??」
「何よ!全然変わってないってどういうことよ?!」
「いつこっちに帰ってきたんだよ」
「てっきり同じ大学行くとばかり思っていたからおまえがいなくなっちまって俺たちはどんなに寂しかったか・・・
わかんねぇだろぉ!!」
「勝手に留学なんか決めてさっさ行っちゃうんだもん!水臭いったらないわよ!」
「ごめんな?本当にごめん!心配かけて」
旧友たちにもみくちゃにされながらも有利は大きく笑う
彼らの中で時間の隔たりは一切皆無のようだった。
まるで全てがあの頃となんら変わることがなかったように溶け込んでいた。
周囲の大騒ぎに驚きつつも囲まれた有利もそれなりに楽しそうで・・・
少し離れたところで見守る村田も知らず視線が柔らかなものになった。