パラレル部屋
□わんコン物語
2ページ/23ページ
『いい?家に帰ってきたらちゃんと宿題をやってお風呂に入ってご飯を食べてからじゃなくっちゃ・・・テレビを見てはダメよ?ゆーちゃん
決められたやるべきことをきちんとやれなくっちゃ・・・立派な大人にはなれません』
とても中学3年生と小学4年生の二人の男の子の母とは思えないほど愛らしさを保つ有利の母だが・・・
言いつけを護らないとそのにこやかで愛らしいその顔が鬼と化する
いや・・・その表情そのものは変わらないが・・・・
にこやかな笑顔のまま怒りのオーラを背に立ち上らせ・・・・・一家中を怯えさせるのに充分の恐怖を味あわせてくれる
とにかく!
今の有利にとっては周囲の者たちの反応などより自分の大好きな野球の開始時刻にちゃんとテレビの前に陣取れるかの方が大問題なのだ。
「プレイボールの前に早く帰ってお風呂入ってご飯食べなくっちゃ!!」
「その前に宿題やんないと君のママさんに怒られちゃうよ?」
彼の頭の中には『宿題』という言葉は浮かんでいないことに気づき村田は年より大人びた表情で苦笑した
「むぅらたくん♪」
それまで前のみ見つめていた有利がふと振り返ると・・・・ニッコリ笑いながら小さく小首を傾げた
きゅるるん・・・・と効果音でも沸きあがりそうな愛らしい仕草で村田を上目遣いに見つめる
「宿題・・・・おせぇ〜てほしいな♪」
『でたな・・・・必殺おねだりポーズ』
チッ・・・・有利に気づかれぬよう小さく舌打ちをする。
ったく・・・無自覚に愛らしさをばら撒くんじゃないよ!こいつは!!
自分もかなり『愛らしい少年』の部類に分類されているという事実にこちらも気づいていない村田は再度・・・今度は大げさなほどのため息を吐いた
「わかったよ・・・・どうせ今日はうちの両親はいないから君の家で食事をご馳走になることになってるから・・・・」
共稼ぎの上に二人揃って多忙な村田の両親は一人息子の村田を家に残して残業業務に勤しむ機会が多かった
村田はその度にご近所で幼馴染の有利の家・・・渋谷家のご厄介になっていた
今朝有利を家まで迎えに行った際、有利の母の美子から帰りにそのままこちらへ来るようにといわれていたのだ。
村田にとって誰もいない冷えた空間の自分の家よりも渋谷家は彼にとって寛げる場所になっていた。
「今から家に帰ってしごくよ!覚悟はいい?」
「ンゲッ!教えてくれないのかよ?!」
「教えてあげるよ?やり方をね!答えを教えちゃったら渋谷のためになんかならないじゃん」
「ひっでぇ〜〜〜」
「ひどくないよぉ〜〜♪むしろ親切と言って欲しいな?」
明るい笑い声が少し西に傾きかけた日差しの中響く・・・・・。