パラレル部屋

□わんコン物語
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「その辺りにしておいたほうがいいんじゃないかなぁ?」

なんとものんびりした声が割って入ってきた


「なんだ?お前・・・・」
「って・・・あれこいつ・・・・」



もちろん有利と引けを取らず有名人の彼の顔を知らぬはずはない

「・・・・・村田・・・・・ぁ」

有利がへたへたと腰が抜けたように座り込んだ。
その地に着いた手の甲を一匹の犬・・・・眉尻に傷を負った薄茶色の毛並みの犬が何度も何度も舐める

その温かな滑りに「ヘヘヘ・・・」と笑いながら有利はその頭を撫でてやる。



「随分泥だらけになったねぇ・・・・渋谷」

呆れたように肩を竦めると村田は・・・・自分たちよりかなり体格のいい少年たちの方を向き直った
メガネの奥の瞳が冷たく光る


「随分好き放題やってくれたもんだ」

村田は本気で怒っていた。
徐に左手を上げる・・・その手には小さな機械。
村田の右手はそのスィッチにかかっていた。


「・・・・・・・ここでこれを押したら・・・・どういうことになるかわかるかな?」

少年たちもその存在を知っていた。
何せ彼らも普段カバンに持ち合わせているものだったから。


「そう・・・学校から支給されている防犯ブザーだよ?この音のすごさが半端じゃないって言うことは・・・君たちも知ってるよね?
これをここで鳴らしたら・・・・きっとすぐそこの詰め所に待機している警備員さんたちが飛んでくるね?
いや・・・それだけじゃない。公園の向こうの交番からもお巡りさんがすっ飛んでくるよ?
いやいや・・・それですまないね。この公園辺りにいらっしゃる公園ママさんたちもきっと何事かと駆けつけるよ?
そうすると君たちはどうする?どうなる?」


いくら悪ぶっていても所詮は小学生・・・
大人に囲まれて太刀打ちできるはずもないことくらい多少脳味噌が足りなくても理解できる。


その結果何が待ち受けているのかも・・・・・・


ゴクリ・・・・
小さく息を殺し溜まる唾液を嚥下した少年たちはすっかり意気消沈し
「クソッ」と捨てゼリフを残し手にしたものを投げ捨てると低木の向こうへと去って行った




「二度と来るな!!このとぉへんぼく・・・・・・デッ!!!」

べぇ!!!と大きく舌を出した有利の後頭部に衝撃が走った

いってぇ!!
「何する「何するんだじゃない!このバカ!!」」

目に涙を溜めて抗議しようとした有利の言葉に覆いかぶさるように軽く拳を握り締めた村田が声を荒げた。

「そんな犬っころ如きに何君が危ない目にあってるのさ!わかってるのかい?
さっきのはこの辺りでも札付きといわれている連中だよ?!
下手したら君もひどい目にあっていたかもしれないんだよ!」

「うん・・・・わかってる。ごめんな・・・村田」

自分を心配し目を吊り上げている村田の怒りを感じ有利は素直に頭を下げた。
下げた上で意を決したように顔を上げる

「でも!!この犬たちがあんなひどい目にあっているの・・・俺我慢できなかったんだ!
ひどすぎると思わね?こんなにひどい傷を負わせて・・・・」

有利は震える指先でじっとその場に蹲る犬にそっと触れた



一匹・・・明るい褐色の長毛気味の犬の方はいまだ警戒し続けているようで・・・
救いの主である有利に対してもまだ低く唸りをあげているが・・・

もう一匹・・・薄茶色の毛色の短毛の犬の方が自分の仲間を軽く諌めるように吼えると有利にされるがままその指先を甘んじて受けた

汚れ身体中傷つくその身体をなでながら有利は小さな声で「ごめんね?痛いだろ?ひどい目にあったね」と呟いた。
その声に反応するように犬もまた優しい色をその瞳に浮かべ小さく「クン」と喉を鳴らす


「まぁ・・・・どうでもいいけどさ・・・どうするの?それら」



助けたはいいが・・・・どう見ても飼い主のいない野良犬だ。
このまま放っておいたら何れ遅かれ早かれ野犬狩りの餌食になるのは目に見えている

「怪我してるし・・・・病院へ連れて行く。村田はそっちの犬連れてきてよ」

そういうと有利は自分のランドセルを背負いなおし自分の足元に蹲る犬に声をかけた

「悪いようにはしない・・・・俺と一緒においでよ」





じっと有利の漆黒の瞳を見つめ上げていたその犬の瞳は夕闇迫る西日を受け・・・・
澄んだ琥珀色に輝き空に浮かぶ一番星のような煌めきを放った。
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