パラレル部屋
□双黒の狼王2〜熱雪花〜
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「コ〜〜〜ンラッドォ〜〜〜」
今日も空を突き抜けるように明るい声が届く。
深い深い・・・・・・・・・どこまでも深い森の切れた先にある村の・・・
一番森に近い場所に生えた一本の木の木陰に座り込んだ男が・・・
自分の名に気づき手にしていた細工物から目を離し顔を上げると・・・
森の中から小さな影が転がるように飛び出してくるのが見て取れた。
毎日森の中を駆け回っているというのに日にも焼けないましろで肌理の細やかな肌を有する華奢な身体
とそこからすらりと素直に伸びた手足
そして
ふるり・・・と振るうとサララ・・・と音を立てそうに絹のように細く艶やかな闇色の髪
きゅるん・・・といつも潤みを帯びて・・・それでいていつも好奇心に満ち溢れ煌いている黒曜石の瞳
所謂双黒と呼ばれる貴色が彼の小さな顔を一層麗しいものに彩っている。
小さくツンと立った鼻先も瑞々しい果実を思わせるような薄紅色の唇も・・・全てが愛らしく・・・
極め付けが・・・・頭の上にピンと立った真っ黒な耳とお尻にくるりと巻いた尻尾。
ユーリは森に住む魔の一族・・・・狼族の一人
それも一族の長・・・・幼いながらも彼は狼王だった。
そんな彼が嬉しそうに自分を目指して駆けて来る姿を見ると普段無愛想な男の頬にも自然笑みが零れる。
「ユーリ」
「えへへ・・・・また来ちゃった。今日は何してるの?・・・ってウワッ!!すげ・・・・」
コンラッドの傍らにちょこんと座り込みにこりと笑うに覗き込んだユーリは感嘆の声を上げた。
彼の手の中の小さな板の上に切り出されていたのは花の文様
大小様々な花の彫りが美しく散りばめられている。
「きれぇ・・・・コンラッドが彫ったのか?」
ごそごそと四つん這いになって擦り寄って行きじっと見つめていたユーリは
ひょいッと顔を上げ小首を傾げるようにコンラッドに問いかけてみる
「小手先の細工だ・・・・こんなものでも村の者に売れば小遣い稼ぎにはなるからな・・・・」
さほど興味もない・・・と言った様子で目線だけでユーリを一瞥したコンラッドは手にしたナイフを再び動かしだす。
その動きに合わせ木屑がシュッシュッと撥ね、その細かな木屑にユーリはまた口を大きく開け「おぉ〜」と声を上げる。
「むっちゃ綺麗じゃんか・・・すげぇなぁ・・・コンラッドって・・・」
太陽光に反射し煌く漆黒の瞳を一層煌かせながらユーリはその場にうつ伏せに寝転がると
嬉しそうにコンラッドの動きを見つめた。
リズムよく調子をとる両足の動きに合わせるように漆黒の豊かな毛並みを持つ尾も嬉しそうに左右にリズムを取る。
2008/06/26