書物
□One name-キミヘ-
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=プロローグ=
「お前何して…危な…」
…呼ばないで
「私の名前呼ばないで」
君は笑いながら人差し指を唇の前に当て、しー、と言うジェスチャーをする。
呼び止めようとした僕は金縛りにあったように押し黙る。
君は笑顔のまま、その体を宙に投げ出した。
「……っ!!」
視界から君が消えて数秒後、鈍い落下音と人々の悲鳴がした。
僕は糸の切れた操り人形みたいに崩れその場に座り込む。
もう君のいない場所を見つめると脳裏は勝手に先程の光景をリピートする。
そして。
ただ。ただ。泣いた。
声なく、叫ぶように。
本当は呼び止めたかったんだ。
"希美"って。
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プロローグfin