書物

□-貫-
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電車に乗ってすぐに降り出した雨が雪に変わり、しんしんと降ってる。
積もるだろうか。
そうしたら、この急ぎ足のような時間はゆっくりになるのだろうか。
叶わない願いを込めて、暗い街並みを見送る。
青いニットミニスカートワンピースに革のショートコートとロングのブーツ。
髪はショートカット。
マフラーはしていない。
見ためは酷く寒そうだ。
でも、実際は体はそれほど寒さを感じていない、本当に寒いのは心だから。
電車から見えた、クリスマスのイルミネーションが霞んで見える。
現実からまだ逃げ出さない為に涙を拭う。
クリアになった視界に入った窓ガラス越しに見た背後の席に座ってる恋人同士が仲良さそうに寄り添って笑っている。
ふっと、出た溜め息は窓に白い寂しさの痕跡を示す。


『ごめん。瑛子(えいこ)。それしか言えないけど、ごめん。』


携帯電話の留守番メモには、貴方からの最後のメッセージ。
いつもより少し震えた声。
初めて使った合い鍵で開けた貴方の部屋は物気の空だった。
手から滑り落ちた携帯と空港のチケットの落下音が酷く大きく冷たく聞こえた。
『ごめん。瑛子。それしか言えないけど、ごめん。』
その声が耳から離れない。
『ごめん』
いつも偉そうな貴方から初めて聞いた謝罪。
聞いてすぐに部屋を飛び出し走り出していた。
フライト時間は22時51分。
まだ間に合う。
そう気づいてからバス停に向かった。
しかし、バスの時間があわず、タクシーも捕まらず、仕方なく駅まで走る。
「お願い…お…ね…がい…ま…に…合って…」
走りながら、呟く。
足が重いし、痛い。
胸が息苦しい。
涙が邪魔して前がうまく見えない。
精一杯冷静を装って、切符を買い、一番早い電車に飛び乗る。
空港まで約1時間半。
再び、溜め息で窓を曇らす。
「なんで…」
泣きそうになりながら携帯を握りしめ、また一駅、また一駅と駅を見送り、空港に向かう。
空港の近くに着くと、雪は積もり初めていた。
空港に入ると、残念ながら、電磁掲示板には遅れの掲示はない。
クリスマスだと言うのに込み入っている空港内であなたを探す。
見つけた貴方は、雑誌を見つめていた。
「ハァハァ…」
恥ずかしいくらい息、髪を乱して、貴方に近づく。
「瑛子…」
貴方は、私に気づいて立ち上がって驚いてる。
「カレン」
カレンは、自分の上唇を舐める。
それは、困ったときの貴方の癖だ。
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