書物

□桜並木〜I do not forget you〜
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「はぁ…」
部屋で何度目かのため息とペンを投げ捨てる行為をする。
事の始まりは昨晩のライブ。



『次のライブでは太陽が新曲を披露します』
メンバーが勝手に告知を始める。
『なっ聞いてな…』
当人は知らない事で否定をするつもりがファンの人達の期待のまなざしについ承諾する。
『楽しみにね』
引きつりそうな顔を必死に隠して笑う。



言ったからにはと作成に取り掛かるがなかなか詞も曲でてこず途方に暮れる。
「だめだ、散歩でもしよう」
現実逃避を始めるが気にせずにギターを持ち、ノートとペンを無造作にリュックに投げ込むと出掛ける。
都内は春真っ盛りで天気がいいからかたくさんの人々が行き交う。
上京したては苦手だった町も人込みも今では馴染み、落ち着きさえ感じていた。
大学の近くにある喫茶店で働いてる店員と仲良くなりバンドに誘われ、早くも1年がたとうとしていた。
詞も曲も作るのは初めてではなかったが今回はなかなか先に進まなかった。
「春…出会い…別れ…なんか当たり前すぎだよな」
ノートを見て独り言を言いながら歩いていた事に気付き端からみたら変な奴なのだろうか。と恥ずかしくなる。
その瞬間…

ビュ〜〜〜

「うわぷっ」
強風と共に何かが顔に吹き付けられ、同時に花の香りが鼻をかすめた。
しばらくして風が弱まったのを確認して、ふとっ風上を見ると目を見開く。
そこには何かの建物に向かっての車道の両端に桜並木道が伸びていた。
顔に吹き付けられたのは桜の花びらで、鼻をかすめたのは桜の香りだったのだと気付く。
そしてその風景のあまりの見事さにため息が出る。
「知らなかった…都内にこんな場所あったんだ…」
敷地内には桜の木の下にベンチが等間隔で並んでいて学生や社会人が昼食がてら花見をしていたので散歩がてらに桜並木道を歩く。
道的には横幅は車が楽々すれ違い出来るくらいで建物までは約1km程の道だった。
桜は7分咲きで時折吹く強風に力無く枝から離れてはひらひらと舞い散る。
自動販売機でコーヒーを買ってベンチに座ると空を扇ぐ。
このまま昼寝をするのも悪くないかもしれない、でも寝るわけには行かずノートとペンをだして作詞に取り掛かる。
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