書物

□"愛して下さい"
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「"愛"の表現には色々な形や方法があるけれど、君はどんな形が愛と思う?」
さてっ、とコーヒーを一口のむと、幸子の椅子の背を引き寄せ机に向ける。急に動いた椅子に幸子が、わっ、と驚いた声を上げる。典成が眼鏡をかけて、幸子の目の前に座る。カウンセラーの顔をする典成に、心の奥底まで見透かされそうで幸子は視線を反らす。きっと心の奥底は、薄汚れていて、醜いに決まってるから。知られたくない。
「愛に形なんてない」
ぷいっ、と、そっぽを向く幸子を、典成は、じっ、と見つめ答えを聞くまで止めそうにない。逃げれない。幸子は、ちらっと見つめたままでいる典成を見る。
「言葉に。言葉にして相手に伝える。その行動が愛の形じゃないの?」
典成は、一度、幸子を見つめてから、なるほどね、と笑う。訳が分からないと言う顔の幸子に、典成は、さらに、ずいっ、と近寄り、幸子の両手を握りしめる。
「幸子。俺、ずっと前から君が好きなんだ」
からかってるだけで、冗談だと思ったが、その顔から遊びは、微塵も見取れない。典成が私を?少し嬉しい、もし、彼の特別になれたら。そこまで考えて、急に心が軋む気がした。特別になって…また…裏切られたら。私は、どうなってしまうの?そうだ、きっと治療の一貫で、本気じゃない。自分に言い聞かせる。
「…だよ」
ん?何を言ってる?と耳を澄ます典成に幸子は笑う。
「そうそう、そんな感じだよ」
うっかりドキドキしたし。幸子は笑うと、ココアをすべて飲み干し、ごちそう様と一言、言い保健室を出て行く。放心ぎみの典成を残して。
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