書物

□"愛して下さい"
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授業開始のチャイムが鳴り、教師が教室に入りながら声をかけ、生徒が次々と席に座る。幸子は隣の席の男子と視線を合わさずに座る。
『どうしたの?』
前の席の友人がメールを送ってきた。
『別れたの』
教師の目を盗みながら返信をする。友人は、えっ、と小さな声を上げる。その後でメールを打ち出す。
『なんで?ラブラブだったのに』
どこがラブラブ何のだろうか。友人の薦めで仕方なく付き合ったけれど、毎日のメールや週末の電話は退屈でつまらないだけだった。少しだけ、"愛"を知れるかもと思ったけれど、知れず、無駄な時間を過ごしただけだった。
『色々合わなくて』
メールを返すと、友人は携帯を見て、再びメールを打つ。
『私も昨日別れたの、あいつB組の子と浮気してて、マジムカつく、不細工のくせにさ』
どんなに好いていても、小さな物事で簡単に壊れる。あんなに、かっこいい、と言っていたのに、不細工呼ばわりだ。頬を赤らめて"好き"と言っても。抱きしめて、"ずっと一緒だ"と言っても。別れは必ず来る。カラオケに行こう、と誘うメールを無視して窓の外、恨めしいくらいの快晴空を見つめる。こんな天気の日は学校をサボって屋上で寝るか、公園でぼーっとしたいな、などと思う。でも、けして彼氏と、いたいなどとは思わない。他人といると疲れるだけ、今回の件で実感した。

「なんで」
ジュースを買い、次の授業をサボって屋上で仮眠をしようとする、と先客がいた。典成だ。煙草を美味しそうに吸ってから、こちらに気付いて軽く手を上げて笑顔で挨拶してくる。屋上は天体観測部、だいたいが帰宅部だけれど、私を含め、ごく数人の部員以外は立ち入り禁止になっていたのだ。立ち去ろとしたが、おいで、と手招きされて仕方なく少し離れた場所に座る。
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