書物

□"愛して下さい"
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職員会議の為、渋々廊下を歩いていると窓から、校門で幸子が車に乗り込むのがの見えた。
「また迎えに来てるよ」
「またって?」
クラスメイトがひそひそ話をしていたのが聞こえて数歩、近寄る。
「羽山さんのお父さんだよ。なんか、噂だけど血が繋がってないんだって」
付き合ってるって話もあるよ?と話す。
「やだ、それってヤバくない?もうやっちゃってるんじゃない?羽山さん、結構男遊びしてるみたいだし」
女子高生の話なんか当てにならないが、火のない場所に煙は立たないし、などと考えながら会議に向かう。議題は、文化祭について。
だいたい保健医に必要ないだろと思いきや、衛生面関係の検査手続きなどがあり、ありがち他人ごとではなかった。幸子のクラスは、教室でクイズゲーム。天体観察部は視聴覚室でプラネタリューム。他にも劇やバンドなどと続き。去年は風邪で寝込んでいた為、今年が初参加。自分には全てが新鮮で楽しみだった。急に行ったら幸子、驚くかな?少し想像して笑う。
「どうか、しましたか?」
隣の教諭に聞かれ、いえ、何でもないです、と苦笑いする。
現実に戻された頭は、ふとっ、引っかっていた事を思い出す。どうか、したのか?って聞きたい物事。
車に乗り込む時の幸子の暗い顔だ。女子生徒の話が本当なら、なぜあんなにつらそうな顔をしていたのだろう。曲がりなりにも恋人に逢っているのに。それとも、先刻の話を引きずっているのか?首筋の複数の赤い痣。なのに口から出てくる"愛"についての否定。暗くなる空を見て、ため息をついた。
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