書物
□不揃いな13色クレヨン(上)
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バスが遅れた為に遅刻ギリギリで早足で歩く。
「チーフの言うとおりにしたら昨日の企画通りましたよ」
会社に入るなり後輩が嬉しそうに近づいてくる。
「次は実行と成果よ。頑張って」
肩を叩いて励ます。
早々とデスクに着きメールを確認し、ファイルを抱えて歩き出す。
「チーフ、アンケートの集計終わりました」
「チーフ、予算が組めないと話せないって営業からクレームが」
後輩や、同期の社員からの会話を聞きながら、スケジュールを確認する。
「とりあえず全部ひっくるめて午後からやるわ」
手を振ると会議から会議へと渡り歩く。
疲れない訳ではない。
やりがいを失いたくないだけ。
「あれ、チーフが社員食堂なんて珍しい」
同じ課にいる女性社員が珍しいと言いながら相席してくる。
「レストランばかりじゃ味しないから」
カレーを食べながら笑う。
「よう、沢内、お前今日誕生日じゃないか?確か30…」
先輩社員が言いかけて止まる。
足を踏まれていたからだ。
「29です」
食器を片付けてから、休憩室で休み。午後の仕事へ。
p.m.5:51
定時に近くなり。
後輩が入れたコーヒーを飲んで一息つく。
「チーフの旦那さんは大変だな」
急な話題提供。
間抜けずらになる。
「なんで?」
「妻がバリバリキャリアウーマンじゃ誕生日も祝えないじゃないですか」
確かに最近は接待やらで中々ゆっくり会話なんかしていなかった。
今朝も。
「たまには早く帰ったらどうですか?」
今更、あなたは誕生日なんて覚えてないでしょう?
後輩に背を押されながら会社を出る。
「愛子(あこ)」
会社の前には夫がいた。
「なんで?」
夫は水色のコートを愛子に着せる。
「"ずっとこのコートを着て僕に見せて下さい"」
それは夫からのプロポーズの言葉だった。
「今日は君の誕生日で僕らの結婚記念日だろ?」
涙が出て、夫の懐に顔をうずめる。
「忘れてると思った」
小さな声で呟く。
「あっ酷いな、朝から、このコート探すの大変だったのに」
あなたは、穏やかに笑う。
「ねぇ、今日は歩いて帰ろう」
気づかなかった事
たくさん、謝りたい。
たくさん、話したいの。
水色の記念日が再スタート。
でも、最後に言わせてね。
…"愛してる"って。
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