書物

□文詠
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午後の歴史の授業は眠く、睡魔と戦うのがいつも大変だった。窓際の列、一番後ろから諭、美乃里、優也と並び、美乃里の隣に維代が座っていた。諭の隣は空席だ。窓から外を見ると学校の前を牛を引き連れた牧場主が歩いていた。牛は何か気になったのか正門前で立ち止まる。牧場主が綱を引くがピクッとも動かない、仕方なく、牛の尻を叩くと、牛が驚いて走り出す。牧場主は牛に引きずられながら門前から消える。どっちが主人かわからないなと笑いながら見ていた。次に視線をグランドに移すと、下級生が体育でサッカーをしていた。なかなかシュートが決まらず、見ていてイライラし始める。
「そこは右の奴にパスだろ!!…いてっ!?」
諭が席から立ち上がり試合に向かいアドバイスを叫ぶと同時に諭の頭部に痛みが走る。振り返り、教師が拳を握っているのを見て自分が殴られた事に気付く。教室中の生徒が諭を見つめて痛そうな顔をする。
「元気いっぱいって感じだな、うん、サッカーに参加して来ていいぞ?但し、準備運動で校庭30周してからな」
ふふん、と教師が笑いながら、諭の首根っこをつかみ、廊下まで引き連る。
「なっ!?ふざけるなよ準備運動で30周なんてしてたらサッカーできねぇよ!!」
じたばたするが小学5年の男子児童では、50を少し越えた男性教師の力には勝てず、身動きが出来ない。
「サッカー出来なくても、30周は走れ、罰だ」
かわいくない笑顔で諭に微笑むと教室のドアを閉める。
美乃里と維代はグランドを走る諭を見てから、馬鹿だね、っと笑い合う。優也は、ぐっすり終始眠っていたが、教科書が盾になり注意は受けなかった。
放課後になったが、諭は、まだ15周程しか走りきれていず、20周目になる頃に美乃里と維代、優也が掃除当番を終えて諭の場所に来た。
「諭!!」
諭がグランドを周り、スタートラインに戻って来ると、美乃里が諭に向かい何かを投げる。諭はキャッチして止まる。投げされたのは給食で出た紙パックの牛乳だった。
「美乃里…」
感動するのかと思いきや、諭は美乃里の元に一目散に走り寄り、突き返す。
「何?諭?」
キョトンとする美乃里を諭は真剣な顔で見つめる。
「自分が牛乳嫌いだからって俺に投げるなよ、だから背が伸びな…い゛っ!!」
背が伸びないと言いかけると、美乃里は文詠御子の扇子で、諭の腹部を突く。
「うるさいわね、余計なお世話よ」
美乃里は怒鳴りつけ、諭はうずくまり咳き込む。そんな二人を見つめ、維代、優也はやっぱり単に仲が悪いだろうかっと疑問を抱く。
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