書物

□文詠
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グランドで諭と美乃里が言い争いをしていると男子中学生が近付い来た。
「美乃里…」
男子中学生が美乃里を呼ぶと、美乃里は諭を突き飛ばし、笑顔で男子中学生の元に走り寄る。
「峰史兄さん」
美乃里は峰史の腕を引いて正門に向かって歩きながら、一度振り返って諭に、あかんべっと舌を出してから去って行く。諭は面白くない顔で倒れたままでいる。
「こぅらあ、山田!!サボるな!!」
教師が竹刀を振り回しながらグランドを諭の元まで走ってくる。と、諭の背中を叩く。
「暴力だ!!虐待だ!!」
騒ぐ諭に教師は、うるさいっと言い、走れと言う。渋々、諭は走り出す。
「たくっ、鬼」
走りながら、ぼそっと呟くと、20メール以上先の教師の耳が動く。
「俺は鬼じゃないぞ!!!!」
教師は、諭に向かって叫ぶ。教師の足元辺りに座り見ていた。維代と優也は凄い地獄耳だなと恐怖を覚える。
30周を完走する頃には日が暮れ辺りは真っ暗になっていた。
下校は維代と優也と一緒だったが、途中から道が違う為、しばらくしてから一人になった。真っ暗な田舎道沿いに何件か住宅があり、前を通る度に夕食の香りが鼻を掠めた。
「肉ジャガ。鯖の味噌煮。あいつんちカレーかぁ。腹減った…」
夕食を当てていると、空腹を腹の虫が伝えて来る。自宅の前まで帰って来ると窓から自宅の中の時計が見えた。時計は19時を回っていた。ふと、自宅の裏方にある山道に視線を向け、しばらく考えてから山に向かって行く。山道を歩いていくと開けた場所が出てくる。その開けた場所には湖があり、その近くに神社がある。神社には、まだ明かりが着いていた。こっそり山の斜面を登り、集会所としても使われてる広い部屋の窓からこっそり中を覗き込む。

---シャランッ…

「…っ!?」
体操着に白着物を羽織った美乃里の汗や髪を振り撒きながら扇子を鳴らす姿に諭は思わず息を飲む。綺麗だと思ったからだ。

---ドタンッ…

「!?」

美乃里は着物の裾を踏んだのだろうか顔から派手に転ぶ。痛そうで見れいれなくて視線を逸らし、ゆっくり視線を戻すと美乃里に峰史がタオルを渡している所だった。何やら楽しそうな顔で話しながら笑っている。宮司は、もう一度と言ったのか、美乃里は立ち上がり、扇子を構え舞い始める。見入っていると足場にしていた石がずれ、斜面を転がり落ちる。物音に美乃里が斜面下を見て呆れた顔をする。
「何してるのよ馬鹿」
諭は、別にっと笑いながら走り去る。諭は帰宅してすぐに母親に怒られながらも、舞いを舞う美乃里の真剣な顔が頭から離れず上手く口答え出来なかった。
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