書物

□-貫-
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---トゥルルル
---トゥルルル
こんなに、呼び出し音が、もどかしく感じるのはどれくらいぶりだろう。
『(はい)』
電話に出たカレンは息が切れていた。
『瑛子です』
名前を名乗るとカレンは、ほっとしたように笑う。
『写真の現像に手間取って、でも、瑛子から電話あるから楽しみで走って帰って来た』
時折、物が倒れる音と、蹴り倒したのか、痛がる声がした。
『大丈夫?』
私が心配そうに聞くとカレンは大丈夫さっと笑う。
『腹空いた』
カレンがつぶやいた。
『食べに来る?』
何でそんな事言ったんだろうかと驚いたが、すぐにその理由を理解した。
---また、会いたい。
話をすると、カレンの家は最寄りの駅から2駅分上りの駅だった。
40分後に自宅に招く約束をしてからは、部屋の掃除や、着替えをする。
別に、恋人を呼ぶわけではないのに。
--ピンポーン
いつもは着けないエプロンを付けて迎えにでる。
「やっぱりダメだよ、年頃の女性が知らない外国人を部屋に上げるなんて」
カレンは申し訳ないと言う顔で立っていた。
茶色のレーザーコートに縦ボーダー柄Yシャツにジーンズ姿でお洒落な服のコーディネートだと思う。
「パスタ、二人分作っちゃったわ。食べないなら捨てるしかないわね」
半分脅しでおどけながら言うと、カレンはやっと部屋に入った。
「うまい、なにこれ、瑛子はプロ?」
感激しながら食べるカレンに、嬉しくなりながら食べる。
チーズのサラダにワインも進み、2本目の半分をコップに開ける。
「カレンは、いつから日本に?日本語が上手」
カレンは、サラダをガツガツ食べ飲み込んでから笑う。
「日本に来たのは今年の春。日本語は、昔住んでた家の裏に住んでた日本人に教わった」
パスタの、おかわりを頼まれ、盛る。
本当は4人前くらい作っていたが黙っておいた。
「何で、あんな写真を撮るの?」
ワインを飲んでから聞くと、カレンの雰囲気が変わる。
「自分を正当化したいのかもしれない。あの写真達を見て自分が貧弱者じゃなくて良かったと思う時がある。その暗泥した気持ちを正当化したいんだ」
みんなに共感を得たいから。
共感を得たらその気持ちは正しいと言うことになるから。
ポツポツと話すと、カレンは、髪を撫でてから口付けをする。
「瑛子…I love you…」
初めてした訳ではないけれど、ファーストキスみたいに甘ったるい痺れが脳裏を掠めた。
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