桐壷
□第一章
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「まあ、姫様。菫の襲(かさね)がお顔に良く、お映えになります事」
「こんなに美しい姫様が私達のご主人だなんて、鼻が高いですわ」
「有難う。私こそ貴方達が居てくれて、どんなに心強いか」
「後宮は、女の戦う場所だとお聞き致します。姫様。姫様のようになよやかなお方が後宮へ赴かれるなんて、私は少々不安です」
「……」
大納言だった父上は、去年の暮れに亡くなってしまわれた。
お父様、何故お亡くなりになってしまわれたのですか。
早すぎます。
けれど、お父様のように立派でお優しい方ならば、仏様も無事に、極楽浄土へと連れて行って下さったことでしょう。
そちらは楽しいですか、心安らかでいらっしゃいますか。
お父様に今一度お会いしたい。
心からそう思います。
涙ぐんでいる私を見て、女房の一人がこう私に諭す。
「ほらほら姫様、涙をお拭きになって。今日は亡き大納言様もお望みになられていた、晴々しい日ですよ」
私はこくり、と頷いた。
大した後ろ盾も無い私。
「大殿(おとど)様がいらっしゃったら」
女房達がしきりに、そう嘆いているのを、何度も耳にした。
私はこれから、どうすれば良いのだろうか。
押し潰されそうな不安と孤独に独り耐えながら、寒々とした日々への不安に、想いを馳せるばかりの私だった。
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