桐壷

□第二章
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私達は、巡り会う為に生まれて来たのだろうか。

帝は時折、こんな事を考える。

帝がじっと考え深げに桐壺更衣を見つめる為、彼女は小首をかしげて彼を見上げた。

ああ、どうしてこんなに小さな動作でさえも、彼女が愛しく思えてしまうのだろうか。


「帝…?」


一体、何をお考えになられているのかしら。

彼は時折、この様に何かを考えながらじっと私を見つめる時がある。

その瞳が「愛しい」と仰っているような気がして、私はいつも、こんな安らぎがあったなんて、と驚かされるのだった。

そして、とくとくと脈を打つこの胸。

彼と一緒に居ると、胸は早鐘を打ち、頬は上気していくのが分かる。

私は、あの菫(すみれ)草とお文を頂いた時から、いや、もしかしたら今世ではなく前世から彼に恋をしているのかもしれない。
私は、思いきって口を開く。


「何をお考えになっていらっしゃるのですか」


彼は微笑むと、こう口にする。


「私は君をずっと前から知っていて、もしかしたら君に会う為に生まれてきたのかもしれない、と思ってね」


私はその言葉に瞳を見開く。

まさか、全く同じことを考えていらっしゃるなんて。


「どうしたんだい。そんな顔をして」


彼が、私の顔を覗き込んでくる。

この人の妻になったというのに、いまだに慣れないのは何故なのだろう。

私は呼吸を数回してから、やっとの事で絞り出した。


「私も、同じことを考えておりました」


それを聞くと、彼はびっくりまなこになり、顔を赤くさせる。

まあ、こんな風にお恥ずかしがられるなんて…。


「見ないでくれ。恥ずかしいよ」


私はくすくすと笑いをこぼしながら、彼を見つめた。







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