緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜
□第四章
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月が明るく照らす中、陶嘉は回廊をてくてくと歩んで行く。
終日の宴も終わり、朧朏の一人宴会も終わるかなと思った矢先の、お呼び出しの帰りであった。
だが陶嘉は前程、宮仕も嫌ではなくなってきていた。
それはやはり、朧朏に対する印象が変わってきたからだと思う。
前はただ、一人飲んだくれることしか知らない無能なお方だと思っていた。
だが、あの笑顔。
微塵の邪気も無いあの笑顔を見てからというもの、陶嘉は朧朏を憎めなくなってしまった。
あんなに可愛らしく微笑まれるのなら、もっと多くの者達が見たがるでしょうに。
あの、無表情がいけないのよ。
でも。
そうだ、私が朧朏様の些細な表情の変化を読み取ろうとしていなかっただけなのかもしれない。
今ならそれを読み取ろうと思うし、読み取る事が出来る。
それだけ、彼女達の間には何か確かなものが、ゆっくりとではあるが確実に育まれていた。
これは、あれだけ朧朏を、嫌っていた陶嘉には大した進歩である。
でも、朧朏様は私の事をどう思っていらっしゃるのかしら?
お酒を召し上がる時や桜をご覧になる時に私を同行させて下さったのは私の事を気に行ってくださっているからなのかしら。
そう言えば前に、朱瓊様がその様な事を仰っていた様な気がする。
そうだと良いわ。
陶嘉はこの時初めて、主人の気持ちを知りたいと思ったのだった。