緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜

□終章
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幽玄宮からの帰り道、朧朏は前を歩いている曦曄に声を掛けた。

「兄上」


「何だ」


曦曄が立ち止まって振り返る。


「私にとって、陶嘉が大切な存在である、と伯母上に何度も主張してくれただろう?」


「そうだな。叔母上はなかなか手強い」



「……有難う」

周りの女官は全員びっくりして、朧朏を見た。

朧朏はごく自然に、柔らかな微笑をたたえていたのだ。


「礼を言わなければならないのは、私の方だ。あの日、お前が陶嘉の部屋へと招いてくれていなければ、私達二人の関係は、おそらくあそこで終わってしまっただろう」


「そうならぬ様に、兄上を呼んだのではないか。あの噂は、やはり嘘だったのだな。私は朱瓊からその事を聞かされた時、恥ずかしさの余り顔から火が出るような思いだった」


陶嘉は黙って聞いているつもりだったが、思わず問いかけの言葉を掛けていた。


「何故ですか?」



「あの後、兄上は噂が真実ではなかった事が証明されたと言うのに、全く何の釈明もなさらなかった。恐らく私の事を思ってなのだろう?陶嘉に、もう一度会わせてくれと頼みにもいらっしゃらなかった。私は、てっきりそうなさると思っていたというのに。私は貴方を見くびっていた。申し訳ない」



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