緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜
□終章
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曦曄は笑って首を振った。
「謝る必要など何処にも無いよ、朧朏。私は自分のことだけで手いっぱいになっていた。周りの事にもっと目を向けるべきだった、と今は大変後悔している」
はっとして、朧朏が兄を見つめる。
『もっとお前を気遣ってやるべきだった』、と言われたのだ。
「いつか、お忍びで陶嘉と蒼陽宮へ行ってみても良いか?」
恐る恐る聞いてくる妹に、兄は破顔一笑した。
「いつか、などではなく、いつでも来い。待っている」
陶嘉はお忍び、と聞いて、まさかあの恰好、あのいでたちで朧朏が蒼陽宮に参上するのではないかと一人心配していた。
曦曄が思い出したように言う。
「そうそう、私が緋月宮へ行ったあかつきには三人で酒を飲もう。この前、陶嘉がそう提案をしてくれた」
朧朏が、ぽつりとこぼす。
「そんな暇があったら、二人で子作りにいそしめ」
「えっ!?」
陶嘉は真っ赤になり、曦曄は凛々しいその目元を見開く。
「冗談だ」
一瞬の間の後、曦曄が大笑いした。
陶嘉は一人耳まで赤くしながら、朧朏様が言うととても冗談には聞こえないわと思ってしまった。
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