緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜
□終章
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「有難う、陶嘉。私という道を選んでくれて」
曦曄は、陶嘉の頬に大きなその手をそっと、沿わせる。
「君は家族以外で初めて、私を大陽創神として見なかった人だ。神でもなく、憧れの対象でもなく、対等な人間として私を見てくれた。陶嘉の前では、私は神ではなく一人の男になれる。そんな気がするよ」
ああ、やっとこの人の本当の言葉を聞くことが出来た。
「曦曄。貴方ずっと淋しかったのね。あんなに多くの女官達に囲まれていながら、毎日沢山の政務を抱えていながら、一人ぼっちだったのだわ。私、今までそれを理解してあげようとしていなかった。ごめんなさい」
曦曄の広い背中に、陶嘉の白い手が回る。
「私こそ、本当に人を愛するという事を知らなかった。いや、愛し方を知らなかったと言うべきか。いつも君を傷つけてばかりいたね。申し訳なかった」
お互いに、不器用だった。
恋をしていたのに、恋の仕方が分からなかったのだ。
「三人で、いや五人かな?いや、皆で幸せになろう、陶嘉」
三人の意味はすぐに分かったが。
「五人って?」
不思議そうな表情で問う彼女が、たまらなく愛おしかった。
「私と君の子供達の事だよ」
子供達の父親となる人、その張本人からこんな事を言われるとは、特別に気恥ずかしい。
それでも。
「ええ。皆で幸せになりましょう」
はっきりと口にした陶嘉と、微笑んだ曦曄、二人の唇がゆっくりと近付いていき、やがて重なり合ったのだった。
暖かな午後だった。
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