桐壷
□第一章
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「本日から、此方でお世話になります。宜しくお見知りおき下さいませ」
床にゆっくりと手をつき、深くお辞儀をする。
顔を上げると、年上の更衣や女房達は互いに目配せをし合い、くすくすと小さな笑い声を洩らしていた。
美しい方々ばかり。
私は今日からここで、日々生活していくのだ…。
退出する際、じっとねめつける様な視線を幾つも感じた。
今まで、こんなに大勢の見知らぬ人に囲まれる経験をしたことが無かった私は、緊張で汗ばむのを感じながら、やっとの事でその場を離れたのだった。
「御覧になって?今の方」
「若くて美しいだけよ。私達と張り合おうなんて、これっぽっちも思っていないでしょうよ」
「確かに、気が小さそうね」
そう言うと、皆が扇で口元を隠しながら笑う。
「大納言の娘といえども、今は表立った後見も無し。放っておいたら良いわよ」
そう言ってしきりに笑い合う。
だが、更衣や女房達は内心、気が気でないのだった。
匂いそむる花の様に可憐で美しく、気品に溢れた若い桐壺更衣。
他の更衣や女房の気を逆撫でするには、充分過ぎる器量だった。
だが、当の本人は、ちっともそんな事には気が付いていないのだった。
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