桐壷
□第一章
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翌朝。
桐壺に仕える女房が戸を開けると、簀子(すのこ)の上に、紫色の可愛らしい菫(すみれ)、それに結ってある高級な薄紙を発見した。
「まあ…。姫様、可愛らしいお花とお文です。何処(いずこ)の公達(きんだち)でしょうか」
誰よりも驚いたのは、桐壺更衣その人だった。
父が亡くなって以来、身分や金銭目当てで文を寄こす男性は、皆無になった。
それに、どこかの公達の目に留まる様な行為は、一切した記憶が無い。
どうして私に、こんな…?
白魚の様な指先で、立派な御料紙を広げていくと、流麗な文字で、和歌が綴ってあった。
「君がため 春の野に出でて すみれつむ わが衣手は つゆにぬれつつ
(あなたの為に春の野原に出てすみれ草を摘む、私の衣の袖は涙に濡れ続けていることです)」
「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ」という光孝天皇の和歌の、替え歌である。
綺麗な字…。
驚いたのも束の間の事。
私は、流れる様に美しい文字に目を奪われた。
よく見てみると、可愛らしい菫の花も、透ける様に薄い高価そうな御料紙も、禁色の紫であった。
まさか…。
私は一瞬、その可能性を考えたが、有り得ないこと事、とその考えを打ち消したのだった。
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