桐壷

□第二章
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「お可愛らしい所もあるのですね」と囁くと、二人はそのまま床に倒れ込んだのだった。

この時の私はまだ、帝と両想いになれた幸福、安らぎにすっかり身を預けていた。

しかし、幸せはそう長くは続かないことを、やがて知る事になる。




「全く、まばゆいばかりの御寵愛よ」

「唐の国では、女性との問題からやがては国が乱れたと言う。我が国は本当に大丈夫なのか」

などと人々が噂を立てる様になった。

帝は、まるで桐壺更衣一人しかいないかの様に、毎晩彼女を召し出すのだった。





今夜も帝からのお召しで、清涼殿へ赴く事になった。

御簾(みす)の内側から恐ろしい程の数の視線、悪口を浴びなくてはならない。

私は緊張の余り、がたがたと身体が震え、汗ばんでくるのを感じた。

ああ、一刻も早く帝にお会いして、安心したい。

あの御方にお会いしている時が、私の唯一の幸せな時間だから。

そう思って必死に一歩ずつ歩んでいた時の事である。

突然、先触れの女房達が大きな悲鳴をあげた。



「何事ですか」

私はなるべく冷静に彼女たちに聞こうとしたが、その瞬間、あまりの衝撃に私も悲鳴をあげた。

女房達の衣装の裾が、人の汚物で汚れてしまい、異臭を放っている。

御簾の内の女達は声を上げて、笑い合っている。





廊下に、汚物がわざと撒き散らしてあるのだった。







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