緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜

□第六章
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「お初にお目にかかります。陶嘉と申します」


蒼陽宮の女官長に、彼女が深々とお辞儀をする。

見た所、二十代後半から三十代前半といった、陶嘉の予想よりは年上の女性だった。


真面目そうで、どちらかと言うと地味な印象を受ける。

蒼陽宮が華やいだ場所であるだけに、陶嘉は内心驚いていた。


「よくぞ蒼陽宮へいらっしゃいました、陶嘉。ここは貴女の様に若い女官ばかりが集っている場所です。一見華麗で雅な場所ですが、恐ろしい所でもあるという事も自覚しておきなさい。良いですね」


その「恐ろしい場所」の意味を、陶嘉は既に理解していた。

今は新しく上司となったこの女官長、彩彬(さいひん)と一対一で対面しているから良いものの、ここへ来るまでにすれ違った女官達の視線たるや。


「御覧になって。あの方が……」


「まあ。よくもここまでのこのこと……」


聞こえ見よがしな悪口の数々、焼けつくかと思われる程の、嫉妬の視線。

覚悟は出来ているつもりだった。


「承知致しました。宜しく御指導の程お願い申し上げます」


彩彬も勿論、陶嘉に向けられる視線や悪口に気が付いていた。

だが、陶嘉はおどおどと動揺する様子も見せなかったし、今自分に対しても女官として申し分ない対応をとっていた。

あの緋月宮で上手くやっていたと聞いているだけあって、状況をよく把握しているようだ。

物腰もきびきびとしていて、好感が持てる。


……戦いが始まりますよ、陶嘉。


彩彬は心の中で一人、そう呟いたのだった。



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