緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜
□第七章
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蒼陽宮の奥の方の、やたらと、くねくねした回廊を幾つも回ると、ようやく扉の前に到着した。
「恐れながら、ここは大陽創神様の御寝室です。陶嘉、此方の場所はくれぐれも内密に」
「承知致しました」
彩彬は微笑み、元来た道を引き返して行った。
内密に、と言われても、あんなに複雑な道順、もう忘れてしまったわ。
それにしても。
女官長様は、確かに「御寝室」と仰いましたよね。
いえ、きっと私が、曦曄様に呼び出されたことが知れ渡ってはいけないから、これ程遅い時間、しかも御私室なのだわ。
そんな事を考えていると中から張りつめた声が聞こえた。
「誰だ!」
呼び出しておいて誰だ、とは何ですか。
そう思いつつも言葉を口にした。
「陶嘉で御座います」
すると、施錠をしてあったらしく、カチリという音がして、内側から扉が開いた。
中から現れた主は陶嘉を目にするなり、驚いたように此方を凝視した。
「お前……随分とやつれたのではないか」
「曦曄様も、そのようにお見受け致しますが……大丈夫ですか?」
自分の食糧危機も忘れて、陶嘉は曦曄の方の心配をした。
「きちんと食事を取っておられますか」
「よく喉を通らぬ」
「駄目ですよ。貴方がお身体を崩されたら一体皆どうするのです」
「だから今日は食卓を用意させた」
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