緋月宮の女官〜春告げ鳥の唄〜

□第八章
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誰も居ない春宵宮の中で、陶嘉は声が嗄れるまで泣いた。

後宮に入ってから、初めて流した涙だった。

やはり、甘い夢を見ていたのだ。

現実は途轍もなく甘美で、そして猛毒を含んでいた。

生まれて初めて本物の恋というものを知った。

そして、恋を失うというものが、これなのだ。

まるで心の臓を抉り取られたような胸の痛み、身体の熱さ。

彼女は一人床にうずくまって、ひたすら号泣した。




翌日、扇玉という女官と大陽創神には男女の関係があるらしい、という噂が蒼陽宮だけでなく、緋月宮、ひいては宮中全体にまで及んだ。



杏茲は憔悴しきった様子の陶嘉が突然夜中に局を訪れて、「何も聞かずに一晩だけ泊まらせて欲しい」と言った時は驚いたが、こう言う事だったのかと納得した。

陶嘉は朝食を遠慮し、講堂内は、それはもう大騒ぎだった。

扇玉も朝餉には参加していない。

「扇玉って、どんな方?」

「ほら、あの大人びた方よ」

「ああ……だから。いえ、その反対かしら」

娘達が小ざかしく騒ぎ立てる。

杏茲は自分の恋心などより陶嘉の恋の方が、余程心配だった。

あの方はとても強いお方だけに、それを失った時の、弱さを知らない。

それに陶嘉は、極度の恋愛音痴だという事にも、杏茲は気付いていた。


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