気まぐれな彼女

□気まぐれな彼女2
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『魚座の貴方の今日のラッキーカラーはグリーン。とても仕事や勉強が上手くいくでしょう』

あ〜、グリーン。

緑は、と。

そうだ、制服のスカートが深い緑のチェックじゃないか!

テレビの占いに左右されてしまう自分の単純さに、少しむなしさを覚えてしまったりする。

でもいいのさっ、日本人は集団思考軍団だし、と勝手に作り上げた言い訳をぶつぶつとつぶやく。

璃乃が大声で歌ったり叫んだり、独り言を言うのには訳がある。

この広いマンションで、突然一人きりになるのは、璃乃にとってかなり寂しいことだったのだ。

一年も経つとそれが、板についてしまった。

あ〜眠い。

ベッドに戻りたいと思いながらも嫌々ながら、歯をしゃこしゃことみがく。

しんとした部屋を振り返り、それでも口に出して言った。


「行ってきます!」


冷たい金属のドアノブを押しドアを開くと。





ツワモノ氷室が居た。


びっくりして、よく会うなあと思う。

「……」

「おはよ」

2、3歩行きかけてから振り返り、こう言った。

「遅い」

何だか急に暖かい気持ちになって、慌てて彼に追いついた。


こうして、「成り行き」「単なる偶然」だった登校は、「成り行き」ではあったが「偶然」ではなくなった。






「裏切り者〜〜〜っ!!」


昼休み、牛乳プリンを美味しく頂いていた璃乃は、ああ、また始まったと密かにため息をついた。

「リノのバカッ」

絹子の一方的な攻撃に、真記子がちゃちゃを入れる。

「まあまあ、キヌ。成り行きだって言ってるじゃん。何も氷室君と付き合ってるわけじゃあないしさ」

それまで、ニヤニヤと笑ってただ聞いていた美穂が口を挟んだ。

「でも、毎朝一緒に登校なんて、皆もう二人が付き合ってると思ってるよ」

「えっ、うそっっ」

その事に衝撃を受けたのは他でもない、璃乃である。

「だって普通は皆そう思うでしょー、当然」と美穂。
皆一様に、うんとうなずく。

誤解だあっと叫んでいる璃乃を横目に、それまで不機嫌だった絹子が目を輝かせる。

「という事は!皆氷室君に虫が付いてると思っている訳だから…ライバルは激減だよねえ。リノッ有難うあんたのお陰だわっ」

あーいーっそれはぁーっと宝塚のベルばらの歌を歌っている絹子を睨む。

さっきまで私をバカだの裏切り者だの言ってたくせに、なんて調子のいい奴…。

まあ、そこがいい所ではあるんだけどね。


「氷室君といえばさあ、リノ。私、視聴覚委員会入れなくなっちゃった」

「うそぉ!マキコ、クラス離れちゃったし、寂しいから今年も一緒の委員会入ろうねって言ってたじゃん」


視聴覚なんて、楽な保健や楽しい放送に比べて遥かに人気が劣るというのに。

それにマキコが言ってた「氷室君といえば」ってまさか…。


「それがさあ、視聴覚を希望して氷室君が手を挙げたが為に、女子の希望倍率が上がったのよ。…という訳で入れませんでした。ゴメン、リノ」


氷室ーーーってめぇのせいで私らの約束がぶっつぶれたじゃないか。許せん!!

「ええーっなら私も視聴覚にすれば良かった…。よよよ」

真記子は、下手な泣きまねをする絹子を見て苦笑いしながら思う。

菅野先輩もきっと入るから、委員会入りたかったのになあ…と。
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