気まぐれな彼女

□気まぐれな彼女3
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思わず璃乃は、彼女をまじまじと見つめてしまう。

それに気付いたのか、涼子と呼ばれた女が親しげに話し掛けてくる。

「ごめんね璃乃ちゃん。いや、野性の本能が告げるのよね、この子はからかうと面白いって」

「吉田、こいつ俺の姉」

「お姉さん!?」

思わず大声をあげてしまったが、良かった、とホッとしている自分が居る。

そう、彼女は氷室の姉だったのだ。

考えてみると、今まで氷室の家族の話を聞かされたことが無かったから、その事に気付かないのは当たり前だ。

しかし、氷室とどことなく似ている。

賢そうな目、整った鼻、形の良い唇に、すっきりとした顎。

かなりの美人だ。

それに、氷室の恋人だと名乗った時の、相手の反応を楽しんでいるような皮肉な笑みも、ピザの宅配を取るから上がれ、と半ば強引的な所もやはり兄弟だなあ、と感じさせる。



制服からジーンズに着替えた氷室が、自分の部屋から出て来た。

あそこが氷室の部屋かあ。

「来るんなら前もって連絡しとけよ。いきなり来られても困るよ」

「おーおー、ちょっと見ない間に益々生意気になっちゃって。お姉さんは悲しいわ」

「どーせいきなり行きたくなったとか言うんだろ」

「よくわかってるじゃない。たまたま近くを通りかかったんだけどね、そう言えば明の住んでる所の近くだったわってなわけよ」


うーん、凄い組み合わせの兄弟だ、と二人の会話に耳を傾けていると、いきなり涼子が話しかけてきた。

「璃乃ちゃん、明に料理教えてくれてるんだって?有難うね。でもきっとこいつは一生、上達しないわよ」

何?と氷室が青筋を立てていると…。


「ああ、やっぱりそうなんですか。一ヶ月以上経ってもみじん切りは角切りのままだから、どうしたもんかと思っていたんですけどね」


あははは、でっしょーと涼子が膝を叩く。

「明ね、てんで不器用なのよ。小学校の夏休みの工作なんて、苦労したのなんの…」


「やめろーっ!」

最初は唖然としていた璃乃が、すっかり涼子と打ち解けてしまった。

もともと人懐こい性格だし、それに明の恥ずかしいネタも貢献したのかもしれない。

3人で宅配のピザを食べた後、璃乃はお礼を言って帰って行った。



「ねえ明、私璃乃ちゃん気に入っちゃった」


「姉ちゃんに気に入られたとなると、あいつの命もそう長くはないな」

「お黙り。あ〜あ、璃乃ちゃん居なくなっちゃったしつまんないからそろそろ帰るね」


何なんだ、その理由は。

相変わらず失礼な奴だな、とベージュのスプリングコートを羽織る姉を見やった。

「また来るから」と言って玄関でヒールを履く。

ドアを開きかけてニヤリ、と笑いながら漏らした一言は。

「しっかりしないと、すぐに持ってかれちゃうわよ」

驚いて目を見開く明を尻目に、涼子は上機嫌で部屋を出て行く。

私に分からないとでも思ったのかしら?

この先が楽しみだわ、とクスクス笑いながら腕時計を見つめた。
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