気まぐれな彼女
□気まぐれな彼女7
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結局2人で明のCDを聴き終わると、璃乃はあっけなく帰ってしまった。
きっとあいつ、何も考えてないんだろうな…まあいいか、俺も今日はおとなしく引き下がろう。
熟睡していた所へ、いきなり携帯に電話がかかってきた。
誰だよ?
こんな夜中に…と重たい瞼をこすって着信画面を見ると、何と璃乃だった。
「…もしもし?」
「あ、明?ごめん、寝てた?」
「当たり前だろ!馬鹿野郎」
「ハイ、すみません」
「どーした?てか今何時?」
「2時位かな?っていうかあの映画、恐すぎ。何と、この吉田璃乃が眠れません。という訳で至急、貴公の元へ参られたし」
はあ〜っ?
何考えてんだこの女。
「…その沈黙は何ですか。これから『もののけ姫』持ってくから。それとも他のが良い?」
ああ、そういうことか。
「要するに、1人で居るのが恐いわけねお前」
「………」
へえ〜、意外な一面を見た。
「まあ、来るだけ来たら?あ、チャイムは鳴らすなよ。俺がドア開けてやるから」
チェーンを外すと、璃乃がパジャマ姿で立っていた。
薄い、青いチェックのパジャマだ。
そして、手にはしっかりと「もののけ姫」のDVDが握られていた。
…本気だったのか。
「眠くないわけ?」
「眠気よりも恐怖の方が勝っている」
はいはい、と言って彼女を抱きしめるとシャンプーの甘い香りが鼻をかすめた。
確かに、体が強張っている。
よしよしと頭を撫でてやると、緊張の糸が切れたのか、彼女が一気にはあーっと息を吐き出した。
「それ、観なきゃいけないわけ?」
もののけ姫は彼女の一番のお気に入りで、少なくとももう3回は観させられた覚えがある。
あのテーマの重さがたまらない、とか何とか言っていたが。
「明が嫌ならいい」
「んじゃ、俺は寝るぞ」
と言うと
「えーっ!?」
と反抗してくる。
何なんだ、もう。
「んじゃ、明の部屋行く」
俺の後に着いて来ると、今度は部屋の本棚を物色し始めた。
「おい、おれは寝ると言っている」
電気を消すと、璃乃がギャーっと叫んだ。
「明、あの映画観た後一人で寝るのとか暗いのとか、恐くないの?」
「別に」
ベッドに入ると、璃乃が恨めしげにこちらを見つめている。
ある意味、逆に恐いんですけど。
はあ、と溜め息をつく。
何だ、この美味しすぎるシチュエーションは。
しかし、果たして彼女にその気があるかどうかが大きな問題だ。
「お前も来いよ」
と言って手招きする。
それでようやく、彼女が躊躇する様子が見られた。
手を差し出すが、彼女は緊張したのか、俄かに震え出した。
「私…」
「さっきのホラーよりは恐くないと思うから」
と言うと、彼が璃乃の手を取る。
そろそろと布団に入ってくる彼女を、明は強く抱きしめた。
「やっと捕まえた」
そう言って、何度も夢中になって彼女に口づけたのだった。