ノブナガ
□ネコに夕焼け
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広間に入ろうとする俺の足が止まった。
あと少しで入り口のところで、何やら声がする。それは楽しそうな声だとか、作戦を立てる時の真剣な声なんかじゃない。一般的にいう如何わしい声だった。
俺がいるところから広間内は見えない。神経を強制的に集中させられた俺はそのまま動けず、広間内の会話を聞くことになった。
「んや……、くすぐったい」
「可愛いな」
「もぉ……クロロ…やめてってばぁ」
まぎれもなくそれは名無しさんの声だった。いつもより高く鼻にかかった声は完全に火照っているように聞こえた。
会話の相手は団長だ。普段は笑ったりしない団長もなんかにやけた笑いをしてやがる。
俺の頭は良からぬ想像でいっぱいになった。目眩がしそうな程頭をぐるぐると廻るそれは長く、後ろにいたシャルにも気が付かなかった。
「ノブナガ、何やってるの?」
「……ん……。ぬおおシャル!」
「どうしたの?そんなに驚いて」
入りなよ、と俺の背中を押すシャルは何もしらない。今入ったら二人の行為を目の当たりにすることになるため、俺は必死で押してくるシャルに抵抗し、後ろに下がろうとした。
「待てよシャル!今はダメなんだよ」
「え?なんで?ノブナガも見たいでしょ」
「な……」
このときばかりはシャルのことを心底バカだと思った。そんな清々しい笑顔で「見たいでしょ」なんて、変態にも程がある。
「すごい可愛いネコなんだって」
「……は?……ネ、ネコ?……」
「早く入ろう」
俺は無理矢理広間に入れられた。
「わぁ、ほんとに可愛い」
そういってシャルは駆け出し、ネコを抱いている名無しさんとおもちゃのネコじゃらしを持っている団長のところへ行った。
二人がそういう行為をしてたんじゃなかったとため息が出るほど安心した俺は束の間、名無しさんと団長の距離の近さに眉をひそめた。
「あ、シャルも触る?」
「うん」
そして俺の眉間の皺はさらに深くなる。ネコを触ることだけが目的であろうシャルは、ネコを胸の位置で抱えている名無しさんの顔に近い。
ちょっと間違えれば胸だって触れそうな距離に、俺のイライラは増す。
ずっとネコをネコじゃらしでかまっている団長は、名無しさんの腕の中で暴れるネコを楽しそうに見ていた。
本当は名無しさんの胸を見てるんじゃないかとさらに俺の神経は煽られた。
広間に入って2、3歩のところに突っ立っている俺を、団長は見た。
「ノブナガも触ってみろ。動物とは意外と癒しがある」
珍しく機嫌のよさそうな団長は持っているネコじゃらしを今度は俺に向け、それを軽く振った。
気に入らない俺は団長の言葉には返事などせず、名無しさんに近づいた。