クモたち+α

□みまもって
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怒気を含んで発せられた名無しさんの声は、私のすぐ横へと落ちた。

「あ〜疲れたっ!!」

個人での仕事から帰ってきたのだろう、いつもの彼女の笑顔がどこにもなかった。何も仕事が楽しくて常にニコニコしているわけではないと思うけれど、何より気分を害していることが珍しかった。

「どうしたの?」

乱暴に私の隣に座った名無しさんは、大きなため息を吐きながら天井を仰ぐ。中心に寄ってしまった眉の皺の深さは彼女の内心をはっきりと表していた。

「わけわかんない、今回のターゲット。一般人だったんだけど…」

「何か気に入らないことでも?」

顔を向けると彼女はさらに中心に皺を寄せ俯いた。
膨らんだ頬を見れば名無しさんのどこか幼い一面を可愛らしいと思ってしまう。

「ねぇパク、愛ってなに?」

想像していなかった、意外なことに驚き言葉が詰まる。今の名無しさんと関係のあることなのか上手く読み取ることのできない私は、ひとまず彼女からの言葉を少し待った。

「どうしたのかしら、いきなり」

「『あなたには愛というものがないの!?』って言われた」

「……」

「『幸せに育ってこなかったの!?』って……。どうして?どうしてそんなこと言うのかな」


今回の名無しさんのターゲットは確か富豪家。おそらく育ちのいいターゲットに言われたのだろう。

首を捻り難しそうな顔をする名無しさんには、まったく理解できない様子。

私もそんなことを言われたらこの子と同じ顔をするのかしら。
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